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「上等兵殿、あれは鳥ではありません!」
「わかってる、だからあれは何かと聞いたんだ!」
「・・・わかりません」
ワイバーンなどという生物を知るはずもない小松島たちだったが、その生物が朝霜に敵意を向けていることを生物の本能として悟った。数匹がこちらに向かってくる。
「各銃座、射撃用意!」
拡声器で怒鳴るように命令を下す。ほぼ全員が所定の位置についていたため、すぐに戦闘準備が整った。
「各自の判断で発砲してよし!」
「上等兵殿、帆船の横のは島ではありません!亀です!」
「亀ぇ?!」
小松島は仰天して島だと思われていたものを見た。確かに亀の頭のようなものが突き出しており、しかもそれが動いている。
「あんなでかい亀がいるか!」
「いるじゃないですか」
それはそうなのだが、問題はその亀が敵か味方かということだ。野生生物が味方ということはまずないだろうが・・・。
「あの亀、帆船を攻撃しようとしているようですが」
「・・・らしいな。帆船の正体はわからんが、放置もできんか。主砲、撃てるか?」
その時、艦橋左右の単装機銃が射撃を開始した。米軍機と比べてはるかに鈍足の生物を狙ったためタイミングを見誤ったが、すぐに修正して命中弾を得た。羽と首がちぎれ飛び、その生物は海面に激突した。だが、まだ来る。
2匹目、3匹目を落としたところで生き残りは朝霜を脅威と見做したらしく反転、逃走を始めた。
「鳥はもうよさそうだが、さて亀は」
ずん、と低い音を立てて一番主砲が火を噴いた。数秒後、目標の亀に着弾。
「跳ね返されたぞ!」
「重巡並の硬さじゃないか!」
ナナナミネーの大砲がロックタートルを狙う。が、発砲直前にどこからともなく飛来した砲弾がロックタートルの甲羅を叩いた。
「あの船が撃ったのか?」
「発砲炎を見ました、間違いないかと」
「5千メートルはあるぞ、どうすれば届くんだ」
ナナナミネー他、撃沈された砲船に搭載されていた大砲の最大射程は約500メートルで、まともに狙える距離はその10分の1程度とされている。逆に10倍の距離で、しかも初弾命中というのは大砲に詳しくないルイナンセーにとっても信じられない奇跡としか思えなかった。結果的に甲羅に阻まれて効き目がなかったとはいえ、まずありえない攻撃力だった。ナナナミネーもその時になってようやく射撃を開始した。
「あっ、惜しい!」
弱点である首のすぐ横を砲弾が通過したのが見えた。ロックタートルの口が開かれる。
「撃ってくるぞ!」
ロックタートルが水流を放つ。ただの水流ではなく、体内で圧縮された高圧水流だ。帆船を構成する木板などは簡単に粉砕されてしまう。
水流が直撃した瞬間、ナナナミネーの船体が一瞬ピンク色に光った。その光が消えた時、そこには無傷の船体があった。
「凌いだか、あと何発耐えられる?」
「先ほど数えたところでは4発で終いでございます」
「4発か・・・少ないな」
「もっとウシアフィルカスを積み込めばようございました」
「今さら言っても仕方あるまい」
「魚雷戦用意」
「ぎ、魚雷戦用意!」
朝霜は目標の亀を重巡洋艦級の敵と判断し、主砲ではなく魚雷攻撃によって撃沈しようとしていた。
「しかし、穴が開いたとしても生き物ですから沈みはしませんよ」
「倒せれば御の字、せめて逃げ出してくれればよしとしよう。面舵20」
「ヨーソロー面舵20」
左に舵を切ると帆船に命中しかねないと判断し、右に舵を切って左舷に魚雷を射出することにした。第1、第2発射管から1発ずつ投射する。
「よーい・・・てっ!」
しゅぽん、しゅぽんと2発の93式魚雷が海中に飛び込んでいく。本来は長射程が自慢の魚雷ではあるが、今回は射程よりもその破壊力が必要だった。
「着弾まで185秒」