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ヒノキではないようだがよくわからない木でできた風呂、ほかに客はおらず小松島一人でゆったりと湯につかることができた。
「なんか、すごい贅沢してる気がするな」
実際このころの日本の事情を考えるとすごい贅沢なのは確かだ。
「新大坂か、新東京か・・・」
考えをまとめるための休息だが思考が止まることはない。
「いっそ通信ができれば判断を仰げるんだがなあ」
そう考えると、いったん第三新東京港に戻ってから海路で新大坂というプランもあるのだ。さらに悩みが増えてしまった。
結局、体はともかく頭が休むことはないまま入浴を済ませてしまった。
「戻ったぞ」
「おー」
部屋に戻るとシチェルがなぜかベッドの上でひっくり返っていた。横になっているという意味ではない。頭を下に、足を上にして文字通りひっくり返っていたのだ。もちろんバランスは壁にもたれて確保である。
「・・・何やってんだお前」
「こうすると足の疲れが取れるんだってさ」
「本当かよ」
どこで得た情報なのやら。
「風呂でそれやるなよ」
「それもいいな」
「やるなって言ってんだよ」
というわけで小松島とシチェルが入れ違いで、今度は小松島が荷物番となった。
「報告書書くか」
とはいえ、今後の行動指針が決まらないと書くことがない。
「新大坂に石油のサンプルありとの新情報。新横浜で換金完了。親東きょ・・・間違えた」
あまりにも新、新と書き続けたせいで誤字発生。ゲシュタルト崩壊か。
「ん?なにか騒がしいな」
窓のむこう、宿の外が少し騒がしいことに気が付き、外を見る。
「兵が集まってる?」
治安維持の兵士が宿の前に数人いるようだ。嫌な予感がして小松島は筆記具を片付け、合切袋に押しこんだ。銃も用意していつでも出られるように備える。
「シチェルは大丈夫かな」
心当たりはある。皇室金庫だ。菊花紋入りの金塊を換金することはできたものの、通常より低いレートだったこと。しらねがここは信用できないと言ったこともあってさらに不信が募る。部屋を出てジェムザとしらねの部屋に行った。
「今いいか?」
「いいぞ」
とのことだったので堂々と入る。




