62
その後、何組かの冒険者や傭兵たちに油について聞いてみるも手掛かりはなし。石油、原油、重油、墨油と呼び名を複数用意すればどれかひといつぐらい引っかかってくれないかと期待していたのだが。
また、新大坂まで安全に移動する方法も手掛かりなし。第三新東京港から海路でという意見がいくつかあったが、いっそそのほうが早いかもしれない。武装した商人団に依頼して買い付けてもらうという提案もあり、これも考慮に値する選択肢としている。
「ジェムザたちとの待ち合わせに遅れるな、急ごう」
待ち合わせの場所は皇室金庫前である。先ほど別れた場所に戻り、ほどなくしてジェムザとしらねもやってきた。
「宿は取れた。馬車も置いてきたが、そちらは何か手掛かりはあったか?」
「重油は墨油と呼ばれている可能性があることがわかった」
「探しやすうなりましたな。こちらもちょっと情報ありましたえ」
「聞かせてくれ」
「何でも、新函館に製油所ゆう施設があるそうな。そこで手に入る油がえろう黒くて臭いとかいう話ですわ。間違っても料理には使えんとか」
「それは有力な手掛かりだ!・・・が・・・新函館か・・・」
遠いのだ。そこまで行ってハズレでしたでは困るのでサンプルを入手したいのに、直接現地へ行けでは意味がない。
「だけどよ、黒くて臭い油って他にあるか?」
「確かに・・・ほぼ間違いなく当たりだよな」
当たりであることに賭けて現地へ向かってもそうそう分が悪くはないと思われた。
「どうする?新函館に行くなら西の新東京へ、サンプル狙いに新大坂行くなら東に行くことになるが」
「ちょっと考えさせてくれ・・・」
考えている間に宿に到着してしまう。
「新東京の油屋を当たってもらえる人脈はないだろうか」
「探してみるか」
すでに部屋は確保済みなので、宿屋に入った後はそのまま2階に上がる。
「久しぶりに入浴できるぞ。この宿は風呂があるからな」
「お、それはありがたい。そういえばいつから入ってないかな」
朝霜にも浴室はあるが、もちろんのんびり湯につかれるような設備ではない。となると最後に小松島が湯につかったのは呉出港前か。
「緑人って、熱湯でも平気なのか?」
「あ、すまん。そこまで考えてなかったが、どうなんだしらね?」
「んー、個人の好みによりますわな。うちはぬるま湯が好きどす」
宿の風呂と言えば熱いに決まっている。もちろんこれには理由がある。ぬるいと雑菌が繁殖しやすく不衛生だからだ。
「ならまあ、適当に入るか」
「だな。休めば考えもまとまるぜ隆二」
「一理ある」
部屋は小松島とシチェル、ジェムザとしらねになった。それぞれひとりずつを部屋に残して荷物番とすることにした。昼間の窃盗事件がまだ記憶に新しいので、施錠できるとはいえ部屋に荷物を残すのが不安だったのだ。




