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「すまん、どういうことだ?バランスが悪いって何だ?」
現代人ならゲーム等で慣れているからすぐわかるかもしれないが、昭和一桁世代の小松島には少々難しかったようだ。
「僧侶のおっちゃんが指揮担当だろ、でねーちゃんが守り、にーちゃんが攻撃担当な」
「バランス取れてるんじゃないか?」
「これだと接近されたらおしまいだろ。近接戦闘役がいないじゃん」
「白兵戦担当が必要ってことか」
「そういうこと」
解説さえつけば小松島にも飲み込めた。要するに、中距離戦闘にしか対応できないチームということだ。
「ふたりの背中の武器はなんだ?槍でもないし棍棒でもないし、弓にも見えんが」
「まあ弓が一番近いと思うが」
「おっさんは剣士かいな?」
僧侶が小松島の三十年式銃剣を指して言う。
「これは護身用か、いざとなったらこっちに取り付けて突撃することもできる」
「・・・なんやけったいなこと考えたな」
考えたのは小松島ではない。
「ああ、それはともかく、もうひとつ訊きたいんだが」
「ん?」
「油を探しているんだ。石油、原油、重油、いずれかに聞き覚えはないか?」
「『げんゆ』ならそこにありますわ」
賢者風の女性が指さしたのは「玄湯」という看板が掲げられた銭湯だった。惜しいがげんゆ違いである。
「聞いたことあらへんなぁ」
「ああ、ない。墨油なら知ってるが」
「ぼくゆ?それってもしかして」
なぜかシチェルが墨油という名前に食いついた。
「もしかしてどうした」
「石油って、未精製だと墨みたいに真っ黒だろ?だからそう呼ぶ人もいるって聞いたことがあるような」
「本当か」
新情報が増えた。
「で、その墨油って、どこで見たんだ?」
「あれはどこだったかな・・・たしか北の方だったと思う。新小樽か新函館か、そのあたり」
「やっぱりそっちか・・・」
結局、大陸北端まで行かないといけないのは変わりがないようだ。
「新大坂で見たという情報があって、それを確認したいんだ」
「なるほどなあ・・・。それはわかったが、力になれそうにはないな」
「そうか」
どうやら得られる情報はここまでのようだ。
「ああ、おっさん、こっちからもひとつええやろか」
「何だ?」
「聞いての通り、前衛職がおらんねん。ギルド未登録で腕の立つ戦士に心当たりはないやろか?」
「ギルド?ああ、座か」
登録済みなら身近に一人いるのだが。
「残念だが心当たりはないな」
「そうか、残念や」
情報交換を終え、解散した。




