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「あとは重油の入手だな」
「新大坂か、新東京・第一新東京港経由新函館行きか」
サンプルだけでも先に入手したいのだが、地図を見る限りでは新東京と新大坂どちらも新横浜からは等距離に見える。いずれも現在地からは10日ほどかかるそうだ。
「こいつはちょっと慎重に考えたいな」
「なら、いったん新横浜に滞在して情報収集というのはどうだ?うまくすれば重油の情報や、新大坂に行く方法について何かわかるかもしれないだろ」
「なるほど」
ジェムザの提案を受け入れ、いったん情報収集を兼ねて新横浜に滞在する方針となった。ジェムザとしらねは宿を確保し、馬車をコインパーキングから移動させに行く。小松島とシチェルが町中で新大坂方面からやってきたらしい人を探してみることにした。
「とは言うものの、どうやって探せばいいのやら」
「簡単だろ。戦争してきました的な雰囲気してれば東から来たやつだろうぜ」
「おおざっぱだな」
言われてみればそれらしい集団がなくもない。明らかに人殺しが好きそうなのを避けて、話が通じそうな団体を探す。
「あのあたりはどうだ」
シチェルが目を付けたのは兵士というより冒険者集団だ。あだ名は「勇者」でござい、といった風な青年を取り巻く一団。青年のほかは賢者に僧侶といったところか。
「話は通じそうだな。行ってみるか」
距離を詰めただけであちらは気づいた。まさに戦場帰り直後で警戒心が緩んでいない様子だ。
「ちょっといいかな」
「何だ?」
幸い、喧嘩ごしの返事ではなく普通に受け答えしてくれそうではある。
「安全に新大坂まで行きたいんだが、いい方法を知らないか?」
「安全にって、そりゃ無茶だろ」
「そうですわ、主戦域を縦に突っ切ることになります」
口調は厳しくなかったが、要望は全否定されてしまった。
「護衛に雇いたいってんなら応じなくもないが」
「護衛かー、この3人でフルメンバーか?」
「ああ、今のところはな」
「じゃああんまり頼れなさそうだな」
シチェルが失礼と言えばあまりにも失礼なことを言うので、相手3人の表情が変わった。
「おい、いきなり何言ってんだシチェル」
「だってそうだろ、魔法使いの隊長に参謀役と防御役の3人組。バランス悪りぃって」
「・・・言うじゃねーか」
「ほら、一目で弱点を見抜かれたじゃないですか」
「ワイもこらあかんって言うたやないか」
「やっぱり?」
だがシチェルの言葉に気を悪くした様子はない。
「あきらめて戦闘奴隷でも買おう言うてんやん」
「それだけはしたくないんだが」
「好き嫌いを言っている場合ではありませんわ」
仲間2人にまでシチェルに同調されてしまい、たじたじになる勇者。
「すまないな、連れが余計なことを言ってしまった」
「いや気にせんといてなおっさん。わいらが言うても隊長聞かんけん」
「そうですわ、むしろはっきり言ってくださって助かりました」




