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「艦長(仮)、双眼鏡ですがひとつだけ一応見えるようにはなりました」
中田二等兵が羅針艦橋の機器を次々に直してくれている。実に頼もしい。
「一応?」
「ちょっと像が歪んでいるのですが、本格的に修理するには時間が足りません」
「わかった、見せてくれ」
小松島は双眼鏡を使って本隊がいるであろう方向を偵察した。
「・・・マストが見えるが、少なくとも僚艦ではないな」
「米軍ですか?」
「わからん、見たこともない形だ。識別表はあるか?」
物入れの中から識別表を取り出す。これには敵味方の軍艦のシルエットが記載されており、この時代の海戦で敵味方識別のために重要な役割を果たしていた。
「古いコロラド級戦艦?違うな、こんなに太くない」
「自分も見てよろしいでしょうか」
中田、続いて金長が双眼鏡を覗き込み、続いて識別表をめくる。
「これかな、コンスティチューション」
「マストの数が違う」
あれも違うこれも違うと議論しているうちに距離が縮まり、船影がよりはっきり見えるようになってきた。
「2本マスト、大きめの見張り台」
「三笠がそんな感じだったな」
「あれは横須賀から動かんだろう。敷島か朝日では」
「朝日は沈んだだろ?」
交互に双眼鏡を覗き込んで識別表をめくる。
「え・・・何だあれ」
金長が4回目に覗き込んだ時、船の他に奇妙なものが見えた。
「鳥のようなものが不明艦上空を飛行中」
「この距離で鳥なんか見えるのか?」
見えるとしたら数メートルの巨大鳥である。どんな化け物だよと中田がつぶやいた。
「領主様、最後の砲船がやられました」
「残りは?」
「本船とデッチー号、ナアグー号のみです」
「逃げ切れんか・・・」
「残念です。無念です・・・」
ルイナンセーはため息をつくと、「運が悪かった」とぼやいた。
「デッチーとナアグーは非武装だったな?」
「はい、対人武装のみです」
「ならばナナナミネーの砲でもって時間を稼ぎ、どちらか1隻だけでも無事に帰そう」
「・・・領主としての務めでございますか」
「そういうことだ」
ルイナンセーと執事は船室を出て上甲板に上がった。最後に弟ルイナントカが死んだ方角を一目見ようと思ったのだ。
「何だ、あの煙は?」
「はて?」
ナナナミネーの右からは数を減らしたとはいえ十分に脅威となる数のワイバーン、その後ろにロックタートルが続いている。さらにその後ろには砲船たちの残骸が漂っていた。
左側にはデッチー、ナアグーが並走している。
そしてナナナミネーを追走するように、激しく煙を吹き上げて炎上中の船が信じられない速度で近づいていた。