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「たのもー!」
そのかけ声はおかしいと思う。
「先ほどこの役場に、逃亡中の窃盗犯が逃げ込んだ!組織ぐるみで庇い立てする意図なくば、すみやかな引き渡しを求める!」
役所じゅうに響き渡る大声で叫ぶジェムザ。その後ろでは小松島が三八式小銃を構えている。見た目だけならふたり組の強盗だった。職員も客も皆がついていけずに動きを止める。
「いや、それは・・・何かの間違いではないでしょうか。そのような者は来ておりませんが」
しばし硬直した職員たちの中では比較的早く立ち直った年かさの男性職員がそう答える。これによって硬直が解かれ、役場の業務が再開されていく。何かの書類の手続きについての説明が再開され、裏口のドアが開いて誰かが出ていき、待合札の番号が読み上げられて順番待ちの客が窓口に歩み寄る。
「おらぬというならそれでよい」
「え?」
「行くぞリュージ」
職員のマニュアル回答に満足したジェムザは踵を返すとそのまま役場を出ていく。想定外の行動に小松島はただついていくだけだった。
「どういうことだ?」
外に出たところで小松島はジェムザにわけを問う。
「呼びかけたら、裏口から誰かが出てったろ」
「ああ」
「まあそういうことだ」
「?」
わけがわからないという顔をしていた小松島だが、疑問はすぐに解けた。シチェルとしらねが役場の裏手から、ひとりの人間を文字通り引きずって連れてきたのだ。
「取り戻したか?」
「おう」
シチェルは自分の合切袋を掲げて見せた。
「・・・どういうことだ?」
小松島はさっきと同じ質問を繰り返す。
「泥棒が役場に隠れてたわけだ。正面から追えば当然裏口から逃げていくだろ。そこを待ち伏せすれば簡単に捕まえられるってわけだ」
よく見ると、引きずられた泥棒の顔面がひしゃげている。もはや人相すら定かではない。
「シチェル、お前何やったんだ?」
「これで殴った」
これ、というのは三八式歩兵銃。銃床は鬼胡桃、後床は鉄でできた鈍器である。
「走ってくるところを振りかぶってこうずどーんと」
「えげつないことするな・・・」
「ひとりだから使えた手だ。仲間がいたら他の手を使わないとな」
「そういう問題なのか」




