55
「おかしいな・・・」
しらねが30分ほど待っていても、3人は来なかった。迷うほど複雑な道ではない、というか別れた場所から一直線だったので迷いようがない。
「ちょっと探してみよか」
しらねは元傭兵、偵察員だった。その理由はカズラ族特有の能力にある。植物に語りかけて情報を得ることができるのだ。皇室金庫玄関に置いてある観葉植物に、3人の特徴を伝えて見かけなかったか尋ねてみる。
「来とらんか・・・ありがとう。え?水が欲しい?」
観葉植物はどうやら3日ほど水をもらえていないらしい。枝触れ合うも他生の縁というわけでしらねは水筒の水を少し分けてあげた。
「ほな、来た道をたどってみよか」
幸いなことに街路樹が並んでおり、情報源には事欠かない。
「お?ここで裏通りに入ったん?」
ある木の目撃情報から、3人が途中で道を逸れたことが判明した。だが残念なことにこの木はさほど賢くなく、3人の会話や細かい挙動までは覚えていなかった。
「こっちに入ると木がないなぁ」
街路樹があるのは主通りだけで、裏通りには植えられていない。草はところどころに生えているが、背が低いので人間の顔や服装などを正確に把握することができず、有効な情報を得にくいのだ。
それでも、走って移動する4人組という特徴的な情報には反応があった。
「え、待って待って。4人なん?」
ほかの植物も葉をそろえて4人組だったと証言している。
「他に誰かおるんか?それとも人違いか・・・?」
とりあえず、情報をもとに足跡をたどる。ある場所から目撃情報が3人組になっていた。
「ここいらで別れた・・・?何があったんや」
「邪魔だ」
細い路地で立ち止まって考え込むしらねは通行の障害になっていた。
「あ、すんまへん」
道を譲り、男性を通す。と。
「・・・ちょい待ち!そのカバン!」
しらねが大声をあげたとたんに、男は走り出した。
「あんたぁ!・・・・そういうことか!」
直ちに追い始める。しらねが見たカバンは、小松島かシチェルが持っていた合切袋だった。
事実はこうだ。皇室金庫に向かう3人は観光客らしい人物2人に道を尋ねられた。だが3人も来たばかりで道案内ができるほど詳しくはない。そんなやり取りの最中にシチェルの意識が逸れた隙をついて、合切袋を奪い取って走り出した男がいた。
「あたいのカバン!」
小松島とジェムザは素早く反応したが、その瞬間に観光客たちが2人を突き飛ばして逃走。合切袋を奪った男の逃走を助けるための時間稼ぎだ。つまり、実行役1名と援護役2名の3人組窃盗団だったわけだ。小松島たち3人の混乱中に観光客風の2人も逆方向に逃走。どちらを追うかとなると、当然合切袋を持った方である。
「どいてくれ!」
通行人を盾に逃げる窃盗犯は、3人をどんどん引き離す。完全に慣れた者の犯行だった。
そして、見失った直後、シチェルが膝から崩れ落ちた。




