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馬車は順調に新横浜へとたどり着いた。
「港もないのになんで新横浜なんだろうな」
「何かおかしいのか?」
「浜という言葉は海の近くという意味だ」
「そうなのか」
ジェムザは日本語堪能ではあるものの、言葉の由来まで詳しいわけではないようだ。
「新横浜は交易都市だ。内戦地帯からの距離はさほど離れていないが、戦ってるやつらだって食事もするしお金も欲しい。大陸北の商都が新大坂なら、南の商都は新横浜だ」
「なるほどな」
新静岡とはまた違った活気が感じられる。ジェムザがさらに詳しく解説してくれたところによると、物の売買より物々交換のほうが珍品に巡り合える確率が高いとのこと・・・だが、今回の旅には関係がない。目的はあくまで「皇室金庫」に立ち寄り、金塊を換金すること。
「亜人が多いな」
馬車から街並みを見ていたシチェルが気付いた。
「内戦地帯から人が来るからな。あそこはどんな人種でも受け入れられるから、そこから人が流れてくる新横浜と新大坂はすべての人種が集まるとさえ言われている。特定の人種しかできない仕事ってのもあるからな、人探しにも最適な街だ」
「・・・あんな人間もいるんだな」
小松島が特に驚いたのは、髪の毛が常に燃え続けている褐色肌の男だった。着衣も可燃性の布地ではなく、岩か鉱物でできているように見える。
「ああ、サラマンドラ族だな。こんな人混みで見かけるとは珍しいな。近づくと火傷するから気をつけろ」
「熱いのか、やっぱり」
「平熱が600度ぐらいで、必要に応じて1500度ぐらいまで体温をあげられる種族だ。戦場で出会ったらもちろん炎の攻撃なんか効かない。逆に水をぶっかけると低体温症になって動けなくなる」
「なあ、あれはしらねのお仲間じゃないのか?」
シチェルが見つけたのは街角のカフェで談笑するカズラ族の男女数名。
「すごいところに来たもんだな」
「客観的に見て私らもその「すごい」のうちに入ると思うぞ。私でさえ皇室海軍なんて噂でしか聞いたことがなかったしな。依頼が来たときは驚いた」
と言われても、小松島にとってはそれが普通だったりするのでぴんとこない。
「朝霜みたいな船が5隻も6隻もあるんだろ?信じられないよな」
「え?」
5隻6隻どころではないのだが、シチェルの想像の中ではそれが大日本帝国海軍(=皇室海軍)のイメージらしい。
説明していいものかどうか悩んでいると、馬車が止まった。
「主はん、こん先は馬車乗り入れ禁止になっとります」
車両進入禁止の標識が立っている手前で、しらねが教えてくれた。
「皇室金庫はこの先だ。降りて歩こう」
「ほな、うちは近くの駐車場探して置いてきます。先に行っといてな」
小松島、シチェル、ジェムザが降車して先行した。しらねは器用に馬車を旋回させると、最寄りのコインパーキングを探した。
「最近の料金表示は複雑やなぁ・・・よういわんわ」
24時間10円止め放題と書いてあっても、25時間目から時間貸しに切り替わるので3日停めて30円にはならない。1泊2円と書いてあっても、日中は通常料金なので2泊するととんでもない金額になる。どうやって客を騙すかに知恵を絞った看板がたくさんあるが、裏通りにようやくシンプルで安い駐車場を見つけた。1時間1円で割引なし、ただし馬は1頭につき馬車と同額。つまり、1時間2円で単純に停めた時間を掛ければよい。地域相場よりかなり安い気がするが、この裏通りは狭いので大型の馬車は入ってこられない。事実以上小型馬車専用ということで安くなっているのだろう。
しらねは前払いで10円、5時間分を支払っておいた。もちろん1時間で戻ってきたら4時間分が返金される。来た道を戻り、一行を降ろした場所にたどり着く。そのまま車両進入禁止エリアに入って、皇室金庫を目指す。だが、先に向かったはずの3人はまだ到着していなかったのだった。




