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手紙はまず、小松島一行があまりにも急に出発したため満足な礼ができなかったことを詫びることから始まっていた。本来なら従業員一同に紹介のうえで歓待したかったとのこと。
「そこまでしなくてもよかったんだけどな」
新横浜に向かうことはわかっていたので急いで新横浜側の門に手紙を届けさせたが、これを読んでいるということは間に合ったということらしいからよかった・・・と。
しかし、その次にある本題は小松島も驚いた。
「石油が新大坂に?」
アトイ油店が扱う油の一部が、新大坂にある国分寺商会の取引店で少量扱われているとのこと。それが重油かどうかはわからないが、サンプルとして入手できるならそれがありがたい。小松島は地図を取り出して広げた。
「ジェムザ、新大坂ってどこだ?」
「大陸東側の町だな。新京都の向こうだ」
「・・・そこって確か」
「ああ、内戦の真っただ中だ。陸路で行くのは無理だな」
「・・・行くとしたら?」
第三新東京港から海路で反時計回りに大陸を4分の1周、もしくは大陸北側から回り込む。ジェムザが無言で指したルートはこの2つだった。
「山脈と内戦地帯でこの大陸はおおむね南北に分断されてるってわけだな」
「まあ、そうなるな。新東京は南側、新大坂は北側に属するわけだ。別国家というわけじゃないんだから、行き来できないわけじゃないが」
「遠回りの山越えか戦場の強行突破か海路の3択か・・・」
時間をかけるか安全を捨てるかいったん戻るかの3択と言い換えることもできるだろう。だが安全に素早くということが求められている小松島の任務の性格上、そのどれも選び難いのが実情だ。
「そもそもこのあたりって何で戦争してるんだ?」
「さて、なんだったかな?私が生まれる前からドンパチやってるからそれが当たり前だと思ってて調べたこともない」
「しらねなら知ってるんじゃないか?」
「あ、そうか」
シチェルの指摘を受けて、小松島は御者席にいるしらねに声をかけた。幌をめくればすぐ背中が見える。
「新京都あたりの内戦について詳しく知ってるか?」
「知っとることだけなら知っとるでー」
「一応聞かせてもらえるか」
「ほな、次の休憩の時んでも」




