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佐多艦長のところに、旅人座からの問い合わせが届いたのは昼頃だった。
「ロックタートルの撃破に関する疑義照会?なんだそりゃ」
「よくわかりませんが、そのような文書が届けられたのであります」
今の朝霜はとにかく人手不足だ。本来なら上陸許可が出たので半舷上陸体制をとりたいところだが、損傷した艦体の修理作業に人手をとられているため艦長でさえ現場作業員として計上せざるを得ないほどである。そのため、「特に大変な作業」に従事した者に限り船員座にて休養が認められていた。作業員補充のため船員座にはウシアフィルカスもしくは奴隷の補充を要望しているが、折り悪くベスプチ船団(ルイナンセーの船団)が大量に補充した直後であり、すぐには用意できないとの返答があった。ウシアフィルカス・奴隷以外の船員や陸上作業員の場合、朝霜の機密もろもろの流出を考慮すると迂闊に雇うことができないのである。
「また日峰というわけにもいくまいが・・・」
フリーで動ける3人のうち中田は手先の器用さを買われて艦内各種機械類の修理手伝いに引っ張りだこ、金長は連絡・調整のために艦内を走り回り佐多大尉の補佐役として重用されている。
「やむを得んか、やはり日峰二等兵を呼んでくれ」
「はい」
というわけで消去法に近い形で選ばれた日峰二等兵がまた下艦し旅人座に走る。ひとりだけ修理作業に従事せず下艦しまくれるということでやや不公平ではあるのだが、他に人がいないのでは仕方がないのだ。
旅人座に到着した日峰は面食らっていた。背中に大剣を背負った男や全身鎧姿の性別不明の人物や赤いローブ姿の細身の女など、見慣れない服装の人のたまり場だったからだ。現代人にはコスプレ会場と言えば通じるのだろうが、日峰の時代にそんな言葉は存在しない。
しかも、それらの人物が逆に日峰の方を見慣れない服装の人を見る目で見ているのだ。困惑だけで済んだ日峰はだいぶこの世界に馴染んでいると言えるだろう。
「アサシモ乗員の方ですね?お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
座の案内係が声をかけてきた。そのとたんに座にたむろする人らがざわめいた。
「本当にやったのか?」
「確かだってよ、証人もいるらしい」
「あの鉄の船の・・・」
「皇室海軍?まだ残ってたんだ」
といった声が聞こえてくる。中には日本語以外の言葉もあった。
「えー、では確認させていただきます。先日、近海に出現したロックタートルを撃破したということで、ベスプチ連合州国オイワ領主ルイナンセー・ヴェルモット氏より申告がありました。相違ありませんか?」
「えーと、ロックタートルというのは?」
「大きな亀ですが、ご存じないですか?」
「あー、あれロックタートルっていうんですね。確かに撃破しました」
座がどよめく。
「さすがは皇室海軍ですね。規定に基づき、特定危険生物対策連携推進協議連盟基金より感謝状と討伐報酬が届いております」
「はぁ」
よくわからない組織から感謝状をもらっても困るのだが、受け取って報告するのが日峰の仕事である。
「こちらが感謝状です」
巻物が手渡された。
「こちらが賞金です。高額なので千円金貨と一万円白金貨を混合してのお支払いとなりますがご了承ください」
「千円金貨ですか・・・」
小さな家が建つ値段という感覚しかない日峰には高額すぎる金貨である。しかもそれより上の白金貨まであるとのこと。それが盆の上に山積みにされていた。
「総額で200万とんで5千円ですね。5千円はワイバーン5匹撃破の報酬です」
「に・・・ひゃく?まんえん?」




