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どっちでもいいのなら一人の方が楽だとジェムザが言うので、3号室が小松島・シチェルとなった。
「正直、三八式の手入れに自信がなくてよ」
「なるほど、そういうことか・・・って、俺も久しぶりにやるから自信があるわけじゃないぞ」
数日前にひととおり説明を聞いただけのシチェルと、徴兵直後にひととおり教え込まれた小松島。ふたり寄っても文殊の知恵未満であるが大丈夫だろうか。
とりあえず荷物を部屋の隅に置き、2人そろって三八式歩兵銃をベッドの上に置いた。ここのベッドはタタミベッドではなかった。
「えーと、ここ引っこ抜くんだよな」
まずはさく杖を抜き取る。
「残弾確認が先だ」
「あ、そうか」
新兵がこんな間違いをやらかしたら間違いなく殴られている。シチェルはボルトを前後させて薬室から5発の弾を抜き取った。そしてさっき抜き取ったさく杖を手に取り、クリーニングキットから出した布切れを先端の穴に差し込み、くるくると巻き付けていく。
「あ」
「ん?どうした?」
シチェルの動作を見て、小松島は思い出したことがある。
「シチェルがなんとなく誰かに似てる気がしてたんだが」
「おー」
「お紺にそっくりなんだわ」
「おこん?」
小松島が幼少のころ、近所に住んでいた1歳年上の女の子がお紺である。釣りの好きな子で、小松島もしょっちゅう近くの川に連れていかれていた。シチェルがクリーニングロッドを操作する様子が、お紺が釣竿を操作する動作にそっくりだったのがきっかけで思い出したのだった。
「そんなに似てるのか?」
「見た目はちっとも。だけど雰囲気がな」
「雰囲気ったってな・・・作ろうと思って作ってるわけじゃねーぞ」
「そりゃそうだろうが」
「で、おこんさんはどうなったんだ?」
「別にどうも。今だって生きてるやら死んでるやらわからん」
小松島が最後にお紺に会ったのは徴兵直後、千人針を持ってきてくれた時だった。それ以来会っていないからもう1年以上連絡を取っていないのである。




