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達成証明書は「すぐ」と言っても数分でプリンターから出力されるわけではなく、決済だ何だと多くの人手を要して深夜にようやく発行された。小松島たちがそれを受け取り外に出ると、真っ暗・・・正確には月明かりしかない状態。遠くに街の明かりは見えた。
「あ、黄泉の世界は月も2つあるんだな」
転生から数日経過していたが、小松島がそのことに気付いたのはこれが初めてだった。
「先に賞金を受け取るか?それとも宿に泊まって明日受け取るか?」
「座はこんな時間でも空いてるのか?」
「商人座とか、医師座は閉まるが旅人座は普通は開きっぱなしだ。知らない街にやっと着いたと思ったら座は閉まってましたでは困るだろう」
医師座も24時間営業じゃないと困るのではないだろうか。この世界ではそういうものなのかもしれない。
「なら今日のうちに受け取ろうぜ」
「シチェルはそれでいいのか?眠くないか?」
「いや別に。待ってる間少し寝たしな」
たしかに三八式にしがみついてうとうとしていた時もあったようが、あれで十分眠気が飛ぶものなのだろうか。起きたのが14時過ぎだったわけだし、生活リズムがずれてくると明日以降に困りそうだが。
「まあいい、なら旅人座に案内してくれ」
「よし」
ジェムザの先導で夜道を歩く。次第に街の明かりが近づいてきたが、往路で盛況だった商店街はほぼ真っ暗である。それを過ぎると明かりのついた民家や役所などが並んでいる。
「こんな時間にどこへ行く」
「旅人座だ」
巡回の兵士に咎められたがその一言で納得したらしく追及はなかった。ジェムザは一行を迷わず旅人座に導いた。
「夜遅くまでお疲れ様です。ご用件を伺います」
受付の担当者は女性だった。深夜営業の窓口が(それほど若くないとはいえ)女性というのには、新静岡の治安は相当よろしいようだと感じさせられる。
「依頼達成の賞金を受領したい。それと、2階に空き部屋はあるか?」
小松島が合切袋から達成証明書を取り出そうとしている間にジェムザが話を進める。仕事柄、旅人座の利用経験は豊富なようだ。
「5部屋開いております」
「では2部屋くれ」
というやり取りの間に書類の用意ができ、小松島が達成証明書を提出した。
「達成証明書ですね。発行は皇国軍の新静岡中央駐屯所・・・発行日は今日・・・いえ、日付変わったので昨日で・・・ん?」
書類を点検する担当者の指が、賞金額の欄で止まる。
「え・・・」
「ん?どうした」
「あ、あの、その・・・この金額って・・・?」
そういえばいくら貰えるのかを確認していなかった。
「いくらだ?」
「ご、52万7千円・・・」
「はぁ?!」




