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「えーと、第三新東京港から新横浜へ向けて出発したのだな。それから・・・」
順を追って記録係の兵士に説明する。2時間ほどを費やした。
「匪賊が賞金首ものだったら賞金を受け取ることもできるが、まだ確認が取れていない」
「まあ今朝の話だと仕方ないだろうな」
「そこで、新横浜への出発を延ばしてもらえないか?」
「急ぎ旅なのですぐにでも発ちたい」
「ああリュージ、それはどのみち無理だ」
「だな、その女の言うとおりだ。もう間もなく都市の門が閉まる」
都市の門が閉まると、緊急時以外の出入りができなくなるのだという。軍の許可証があれば別だが、小松島の事情程度では許可証は発行されない。
「こうなると思って国分寺商会で宿屋の場所を聞いてある。行こうぜ」
ジェムザは本当に手回しが良い。
「仕方ないか・・・」
無理強いをあきらめ、小松島は新静岡での一泊を受け入れた。だが、出発しようとしたときにたまたま帰還してきた兵士たちが大声で報告する言葉を聞いた。
「タルタロ兄弟が討伐されたぞ!」
「今朝の討伐報告の裏が取れた!」
ざわめき、そしてすぐに歓声が上がる。盛り上がる様子を見ていると、1人の兵士が走ってきて小松島のすぐ横の壁に貼ってあった手配書を剝がした。
「大物なのか?」
シチェルがその兵士に聞くと、「勿論!」と答えが返ってくる。
「なあおい、まさか」
「たぶん」
ジェムザと小松島はこのやりとりだけで互いの考えを交換し合った。
「シチェル、気づいてないぞ」
「だよな・・・」
さすがに結果が気になって小松島も駐屯地を辞せずにいると、また別の兵士がやってきた。そして、小松島を見つけると表情が変わる。
「あ、あんたぁ・・・今朝南門から入った人だよな?」
「そうだが」
「だよな!ちょっと待っててくれ!たいちょー!」
慌てて走り去り、すぐに上官らしき人物と共に戻ってくる。
「この方たちですよ、タルタロ兄弟を討伐したのは!」
「間違いないのか?」
「今朝報告を受けたんで」
あのとき対応してくれた兵士とは別だが、どうやら後ろで控えていたひとりのようだ。小松島の顔を覚えていたらしい。
「名は」
「小松島隆二」
「ジェムザ・フォル」
「シチェル・アトイ」
名乗ると、上官らしき人物は手元の書類を確認した。
「記録の通りだな。よし、よくやってくれた。まずは礼を言う」
「賞金がかかっているとは知らなかった」
「構わん、結果がすべてだ。賞金の受け取り方は知っているか?」
「いや、知らないし受け取ったこともない」
「ここでは達成証明書を発行するだけだ。旅人座(冒険者ギルド)に証明書を提出するとその場で受け取るか座証に記録するかを選べる。座の場所は知っているか?」
これもジェムザが調べてあった。案内人としての仕事ぶりはさすがという他ない。
「急ぎ旅だと聞いている。本来なら証明書はこんな時間には出せないんだが、すぐにでも発行しよう」
「感謝する」
お辞儀の代わりについ敬礼が出た小松島。相手は一瞬怪訝な顔をしたがすぐに答礼してくれた。
「来月で退官予定だったんだが、心残りが一つ消えた。私個人としても感謝している」




