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新静岡の軍中央駐屯地がなぜ農村地帯のど真ん中にあるのかというと、この畑は兵士たちが開墾しているのだという。早い話が自給自足で戦力を賄っているのだ。あまり意味がないように思えるが、このおかげで「入隊すれば食事は確実にもらえる」という印象を強くできるため、志願者が常に公募数を上回り、人手には困らないそうだ。
「お?何を作ってるのかと思えば大根じゃないか」
黄泉の世界で大根畑を見るとは小松島も思っていなかった。
「これが大根なのか、植わってるところは初めて見たな」
「野菜なのか?」
シチェルは大根を知っているようだが、ジェムザは見たことがないらしい。
「トラースといっしょに煮込むとうまいぞ」
「トラースはシンプルに焼くのが一番だろう」
今度は小松島の知らない食材が出てきた。ふと横の畑を見ると、こちらも見慣れた作物。
「こっちは米か。しかも陸稲・・・」
メイジニッポンの農作物は日本のものと変わらないらしい。出発前に朝霜に届けるよう手配した食料もこれらと同じようなラインナップだとしたら、乗員たちはさぞ喜んでいることだろう。
いつまでも畑を見ているわけにもいかないので、調理方法について議論しながら先に進む。その間にも、小松島が見てわかったものだけでほうれん草に葱、牛蒡に茄子、収穫作業中だった蕪と、馴染みのあるものが多かった。
「何用か」
門を守護する兵士の誰何を受ける。
「第三新東京港につながる道の途中で遭遇した匪賊を討伐した小松島隆二だ」
「報告は受けていない。いつの話だ?」
想定外の反応で対応に困った小松島にかわってジェムザが答えた。
「届け出たのは今朝だ。南門の兵士に報告してある」
「確認する、ここで待て」
兵士が確認中にジェムザが説明してくれたところによると、このぐらいの情報の遅れは驚くことでもないとのこと。翌日中に周知されていれば早い方らしい。待つ間にせっかくなのでトラースという食材について聞いてみると、トラールという魚を塩漬けにしたものをトラースというそうだ。非常に塩分が濃いので保存がきくが、そのままでは塩辛くて食べられないそう。これを焼いてパンで挟んだり米に混ぜたりして食べるのがジェムザの好みらしい。シチェルはトラースを食材ではなく調味料の一種というとらえ方をしており、野菜と一緒に煮込むとほどよい塩加減になるとか。実家周辺ではそれが普通の使い方だったとのことで、ハットカップあたりの伝統料理なのだろうか。
「ちょうど今朝その報告を受けた者がいて確認をとった。記録に残すので入ってくれ」
というわけで、3人は駐屯地への入場を認められたのだった。




