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「あ、って。何かあったのか?」

「いっそ第一新東京港を目指してみたらどうだ?そこから新函館まで船で行ける。これなら10日ぐらいで着けるかもしれない」

「新横浜から第一新東京港までは?」

「そのぐらいなら馬を借りよう。新東京経由でだいたい10日」

合計20日。これが一番マシなプランか。

「・・・報告書に書き足さないといかんな」

小松島は先ほど封をした報告書を開封した。

「この地図、もう一枚複写できるか?」

「やっておこう」

ジェムザに便箋を渡して、書き写してきた地図をさらに書き写してもらう。さらにエトゥオロオプを書き足して入れ、報告書を再封印した。

「手紙ってどうやって出すんだ?」

「逓信局に出せばいいが、国分寺商会ぐらいの大企業になると自前の配達網ぐらい持ってるんじゃないか?」

仮眠室を出て国分寺商会の事務室に行くと、ジェムザの言う通り郵便物を取り扱う窓口があった。担当者に料金を聞くと第三新東京港までは9円だという。

「俺の月給より少し安いぐらいじゃないか」

数字だけ見ると随分高いが仕方ない。手持ちの切手は5円分しかなかったので現金で支払い、配達を頼むと担当者が手紙をもって出て行った。高いと思ったら直接配達に行ってくれるらしい。江戸時代の飛脚のようなものだとすればこの値段も納得か。

「商売は情報の速さが決め手ってことか」

納得した小松島は仮眠室に戻る。シチェルがもう起きていて、出発の準備をしているところだった。

「町を出る前に軍の駐屯所に行くんだったな?」

「ああ、だが事情聴取になると思うぞ。たぶん今夜はこの新静岡で一泊だ」

「仕方ないか・・・」

先を急ぎたいのは確かだが、メイジニッポンの軍や警察を無視して動くのはリスクが大きすぎる。ここは同調しておいたほうがよいだろうと判断した。


中央駐屯地の場所を国分寺商店で確認すると、少々距離があった。新静岡はそれほど大きな町ではないとのことだが、それでも大都市と呼べる程度の人口はあるようだ。

途中、活気のある商店街を通り抜ける。

「日本では見ない風景だな、外地という感じがする」

「そうなのか?こういう市場みたいなのはないってことか?」

「ないというか、1時間もすれば跡形もなく撤去できるような店舗が多数並ぶようなところがあまりない。国分寺商店を小さくしたような、完全にその土地に固定された建物でモノを売ってることが多いな」

「引っ越すときはどうするんだ?その場所から動けないじゃ不便だろ」

「新しく商売を始めるときに必要な資金がかなりかかるんじゃないのか?大手じゃないと開店できないだろ?」

ジェムザは旅慣れていて、シチェルは商店の娘としてという別々の理由で外国の商店経営に興味を持ったようだ。

「居抜きと言ってな、商売をやってた空き家をそのまま利用して新しい店を開くやり方があるんだ。これだと商品だけ用意すればすぐ商売できるし、閉店するときは空き家にして持ち主に返せばいい」

「次に誰も入居しなかったら?」

「その時は建物の持ち主が、維持費の分の損害を被ることになる。だが手軽に商売を始めることができるから、商才のある人間が世に出る確率が高くなる」

「なるほど」

「確かにそれは合理的だな」

「なくはないな・・・」

「商売人というより商店街のメリットを重視しているわけだな」

2人とも妙に納得した様子だった。店舗というより屋台が立ち並ぶ商店街も店舗が途切れ始め、植木屋を最後に農村風景に切り替わる。

「あれ?道を間違えたか?」

「いや、あってる。建物が他にないからよく見えるだろ、あれが目的地だ」

ジェムザが指さす方向に、この世界では珍しいコンクリート造りの建物があった。3階建てだろうか、その屋上にはメイジニッポン皇国の国旗である菊水紋の旗が掲げられている。


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