39 37話ごろの朝霜
金長一等兵、日峰・中田二等兵の3人は運が良かったのか悪かったのか。
朝霜乗組員が大きく人数を減らし、再編成・配置換えの嵐が吹き荒れているさなかに小松島上等兵の指揮のもと黄泉の世界の住人達と交流したり交渉したりしていたために、気が付けば定位置たる配置がないという不思議な状態にあった。
「そういやお前らのこと忘れてたわ」
「えー」
佐多大尉に自分たちの配置について確認するとこのような回答であった。小松島ら5人が特命のため下艦後、乗員名簿が滅失した状態で再配置を実施。各部署長らが部下の人数を申告、それをもとに再配置した結果、作業後に佐多大尉が人数を数えると48人であった。離艦した小松島上等兵、シチェル、佐多大尉自身を足して51人・・・ということで納得してしまい、うっかり配置表を承認してしまった後で3人が陸から戻ったのだった。
「とはいえ仕事は山ほどあるからな。とりあえずさっき届いた食料の積み込みが終わったら艦の修理にかからんといかんから適当に手伝え」
「適当ですね」
朝霜は現代の車などとは違い、一度缶の火を落とす(エンジンを切る)と再起動するのに半日以上を要する。だが、重油の備蓄が半分を切った状態でつけっぱなし(いわばアイドリング)を続けるわけにもいかず、やむなく全缶を停止させていた。重油を使わないとはいえディーゼル発電機も停止したため、一部の部署ではろうそくの明かりでの作業を強いられている。なんと人力発電による充電までもが本気で検討されていた。
「では、最後尾の修理作業を手伝いたく思います」
艦尾の損傷は水中作業を伴うもので、手間も時間もかかるものであることが見てとれたため、まずはここから手伝うことにした。
艦尾の水雷科倉庫は浸水しているため艦内からのアクセスは不可能。甲板の裂孔から降りて水没した荷物を引き上げる重労働だ。
「艦長命令で金長一等兵以下3名、支援に入ります」
「おう、助かる。ちょうど作業員交代の時間だから体をふいて着替えさせてやってくれ」
ボイラーが停止したのでお湯を沸かすことすらできないのである。冷たい水から上がった後は乾いたタオルで体を拭くだけだ。あまりにも過酷すぎるということで、作業従事者には酒がコップ一杯支給されることになっていた。ちなみにこれは酒保の在庫ではなく故杉原艦長の私物。
「一等兵殿、港の施設を借用することはできないのでしょうか」
「俺もそう思う。中田、具申してきてもらえるか」
中田は羅針艦橋に走り、艦長に意見具申。了承を得たので外出許可をもらって座に走る。
座では船員の寄港中の生活に関するもろもろの支援・援助を行っており、当然入浴施設の利用も可能だという。
「第三新東京港船員座の自慢は、大浴場なんですよ~」
と岸壁作業員の四谷さんがしっぽをぐるんぐるん回しながら説明してくれたので、朝霜に戻る予定時刻を大幅に過ぎた中田は金長にぶっとばされて落水したが、入浴順は後に回されてしまった。
港の海水は日本と変わらない味だった。




