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後悔。ただそれだけだ。
「領主様、船内にお隠れを。ここは危険です」
私が乗る帆船、ナナナミネー号はただいま戦闘の最中だ。船団護衛のために雇った砲船が盾となって私を逃がそうとしてくれているが、相手は海賊やどこかの軍隊ではない。海の魔物、その中でもとびきり危険なロックタートル。
この船より大きな甲羅を持ち、こちらの大砲はすべてはじき返されてしまう。唯一の弱点は頭部だが、そこを狙えるように船の向きを変えたときにはもう相手の場所も変わっているから意味がない。しかもこいつの甲羅は平らになっていて、そこでは空の魔物ワイバーンが翼を休めることができる。ロックタートルはワイバーンに安全な休息場所を与え、ワイバーンはロックタートルに餌を与える共生関係が作られているのだという。見たまえ、ワイバーンが船団のどれかの船で捕まえてきた人間をロックタートルの口に放り込んだではないか。学者の言うこともあながち嘘ではなかったようだ。
後悔と言うのは弟のことだ。すでに戦闘開始から半日が経過しているが、弟の船ホネエチヤンの船はすでに視界にない。船団で最も新しく豪華な船だったが、真っ先にロックタートルの体当たりを受けてバラバラになってしまった。
弟は婚約したばかりだった。ベスプチ連合州国オイワ領からガリアル君主国へ花嫁を迎えに行くべく最新の船を駆って旅だったが、私が余計な口出しをしたのがいけなかった。
『メイジニッポン皇国で獲れるカキィという果物が、夫婦の愛を永遠のものとするシンボルとして扱われているらしい。手土産としてはどうか』
船団がメイジニッポン皇国に立ち寄るため、予定より北寄りの航路を選択した結果がこれだ。ホネエチヤンは沈んだ。弟とともに。生き残った乗組員はワイバーンの餌になっただろう。畜生。
私がいけなかったのだ。私がすべていけなかったのだ。
後悔。ただそれだけだ。
「ご主人様、お怪我を・・・」
執事に言われて気づいた。確かに頭が痛むがいまはそれどころではない。私が乗っていた帆船、ホネエチヤン号はもう海の中だ。私と執事は浮いていた木箱にしがみついて漂っている。船団護衛のために雇った砲船が兄の船を護衛して離れていったが、恨んではいない。むしろ兄だけでも守ってくれと祈っている。相手は海賊やどこかの軍隊ではない。海の魔物、その中でもとびきり危険なロックタートル。
この船より大きな甲羅を持ち、こちらの大砲はすべてはじき返されてしまう。唯一の弱点は頭部だが、そこを狙えるように船の向きを変えたときにはもう相手の場所も変わっているから意味がない。しかもこいつの甲羅は平らになっていて、そこでは空の魔物ワイバーンが翼を休めることができる。ロックタートルはワイバーンに安全な休息場所を与え、ワイバーンはロックタートルに餌を与える共生関係が作られているのだという。
後悔と言うのは兄のことだ。兄はベスプチ連合州国のオイワ領主になったばかりだった。連合議会に初めて出席したとき、ガリアル君主国へ親書を届ける役目を与えてもらったぐらい優秀な兄だった。万一に備えてオイワで最も頑丈かつ高速な船ナナナミネーを駆って旅だったが、私が余計な口出しをしたのがいけなかった。
『メイジニッポン皇国に咲くガベレイアという花が、安定した地位と名誉をもたらすシンボルとして扱われているらしい。手土産としてはどうか』
船団がメイジニッポン皇国に立ち寄るため、予定より北寄りの航路を選択した結果がこれだ。兄を乗せたナナナミネーはロックタートルとワイバーンに追われ、逃げ続けている。どちらか片方だけなら撃退するか振り切ることも可能だろうが・・・。畜生。
私がいけなかったのだ。私がすべていけなかったのだ。