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「そりゃそうですよ」
アリューシャンが即座に肯定する。
「皇国海軍なら別に珍しくもないな、第三新東京港にも何隻かいただろ?」
いたのか。ジェムザは当たり前のように言っているが、小松島は当然気づいていなかった。
「関係者とおっしゃいましたが、本当に関係をお持ちなのですか?」
身分詐称を疑われ始めた。
「そのあたりがどう認識されているのか調査するのも任務のうちなのですが、まさか世間ではそういう認識だったとは思いませんでした」
「つまり、実態は異なると?」
「こちらは厳密に使い分けているつもりはありませんでしたので」
「なんと」
アリューシャンもジェムザもこれは想像していなかった答えのようだ。ここは本当の身元を明かすべきなのだろうか。いや、まだ早いかもしれない。そこで馬車が動き始めた。開門時刻のようだ。
「これからどちらに向かうのですか?」
「いったん国分寺商会の本店に戻ってから、兵の駐屯所に出頭します。ここでの手続きは仮のものですので。そちらの皆さまは?」
「リュージ。少し休んでいきたい」
「そうだな、シチェルにはちょっと強行軍だったと思うぞ。急ぐのはわかるが、少し休ませた方がいいと思う」
「わかった。・・・えー、そういうわけですので、一息入れられる施設をご存じないでしょうか」
「そういうことなら商会の本店に休憩設備がありますので、ご利用になりますか?畳の部屋もありますよ」
「それはありがたい」
「畳部屋か、久しぶりだな」
「タタミってなんだ?」
ジェムザは久しぶりというので利用したことがあるようだが、シチェルは畳を見たことがないらしい。
「パミルの木の樹皮を剝いで縫い合わせたマットを敷いたベッドだ。綿より硬くて、慣れないと寝づらいかもしれないが通気性がいいから涼しいぞ」
小松島の知っている畳とはだいぶ違う気がする。
国分寺商店本店の仮眠室に通してもらう。ひと眠りした後で食事も用意してもらえるとのことだ。助けていただいたお礼にということで無料である。
「これがタタミかー」
「私の知ってる畳と違う・・・」
ちゃんといぐさを編んで作られた畳だった。ジェムザが畳だと思っていた何かとは勿論別物である。
「あ、でもこれも通気性はよさそうだな」
「というかこれが本当の畳なんだが」
「じゃあ私が畳だと思ってたのは何だったんだ」
「知らん」
ただ、ベッドの上に畳を1枚置いただけという使い方は小松島の知っている畳とも違う使い方である。なお、1枚の大きさも一畳とは異なりだいぶ大きい。シングルベッドのマットレスをそのまま畳に置き換えたと言えばイメージしやすいだろうか。日本文化と黄泉世界文化が混ざって出来上がった寝具ということだろう。そのベッドが6つ並んでいるが、国分寺商店では昼間は当然使わないので自由にしてよいそうだ。
「俺はとりあえず艦に提出する報告書を書くから先に寝てくれ」
「おう」
シチェルは銃と荷物をタタミベッド(と呼んで畳と区別することにする)に置いて、その隣のタタミベッドに寝転がった。
「んじゃ寝る」
「おやすみ」
小松島はノートとペン・インクを取り出すと、これまでに判明した事実を記し始めた。




