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日が暮れるまでには国分寺商会一行全員が目を覚ました。だが負傷者多数であり、小松島たちも馬車に乗せてもらうことはできそうにないので、交代で休息をとりつつ夜間も止まらず移動し続けることにした。幸い御者の負傷は軽く、松島と代わる形で御者席に座っていた。今は足を負傷した3人と小松島一行、アリューシャン、松吉が休憩する番となっている。慣れない御者の仕事を続けていた松吉は早々に眠り始め、けが人たちも順次眠り始めている。
「それはそうと、シチェルとリュージの武器。それは何なんだ?」
ジェムザは体を休めつつも起きていた。
「三八式歩兵銃だ。日本軍の武器だよ」
「最初は棍棒かと思ってたが、それにしちゃ扱いづらそうな形をしているから不思議だったんだよ。シチェルが構えたときに弩かと思ったけど、矢もないのに敵を撃ってたろ?」
「それはまあ、そういう武器だとしか」
小松島とて専門家ではない。弾を込めて引き金を引けば撃てる、ぐらいの認識でしかなかった。シチェルが腰のベルトに取り付けられた弾薬盒から三八式実包を取り出しジェムザに見せた。5発セットで挿弾子に止められているのが普通だが、シチェルはなぜかバラして収納していた。
ちなみに、2人とも遊底被は装着していない。
「これがその武器の矢か」
「そういう認識であってる」
おおむね正しいので訂正しないことにした。
「さっきの、スキルについての話も少し詳しく聞いていいか。練習すれば誰でも使えるようになるものなのか?」
今度は小松島から質問してみることにした。
「ある日突然使えるようになる感じかな?」
「だな、あたいもいきなりだった。前触れとかも何もなかった」
「神様が気まぐれに与える才能っていう人もいるな」
才能という表現が、限られた一部の人にしか使えないという性質をうまく説明している。
「片目だけ使えるのが半端者っていうのは?」
「そりゃ普通は両目に出るだろ」
「握力強化とか、半端でも別に困らないスキルもあるけどな。シチェルの視力強化は日常生活にも影響するから困っただろ?」
「当然大変だったさ。包帯巻いて片目隠したりとかな。これが両目だったら弓の練習でもして、一人前の弓使いになってたかもしれないけど」
違いが判らない人もいるかもしれないが、弓と銃では照準のつけ方が全く異なる。弓は両目で、銃は片目で狙いをつけるのだ。また、手に利き手があるように目にも利き目がある。手が右利きで目も右利きというのが理想だが、こうなる人は意外と少なく、どちらかが左利きという人がそれなりに多い。にもかかわらず銃は基本的に手も目も右利き用に設計されることが多い。矯正によって補うのがコストも時間も最も節約できるからという考えだ。
「魔法とスキルは違うのか?」
「違・・・ん?そういや、どう違うんだ?」
シチェルはそこまで詳しくないようだ。
「似たようなものだろ?別にわざわざ区別しなくてもいいんじゃないか?」
ジェムザは詳しくないというよりいい加減らしい。
「とりあえず戦いは2人に任せた方がよさそうだな。俺の腕はからきしだ」
「そのことだが、昼間みたいなことはなるべくしないでくれよ。私の仕事は2人の道案内と護衛で、人助けは契約に入ってない」
「あー・・・あたいがいらんことしたせいか?」
「自分から敵を増やすような真似は慎んでくれってことだ。小松島だって本来の目的があるはずだろ?」
「すまん」
「・・・とりあえず寝ようぜ。このペースなら夜明け頃には新静岡に着く」




