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馬車を操るのは素人なのでスピードが出ないが、歩いて付き添う小松島一行にとってはそれが幸いだった。道中、最初に目を覚ましたのは商人だった。

「けがの具合はいかがです?」

「右足が痛む・・・だがとにかく助かった、ありがとう」

商人の名前はアリューシャン・ベロウッド。ベスプチ人だそうだ。国分寺商会を経営しているそうだが、商会の名前と経営者の名前がまるで違うということに違和感がある。小松島は万能の言葉「郷に入りては郷に従え」を口の中で唱えて納得することにした。

「松吉、お前はいつ馬の扱いを覚えたんだ?」

「いえ旦那様、実は手綱を握る以外はほとんど何もしておりません。進めと止まれ以外は期待されても困ります」

「なんだ、そうか。ところで小松島殿、私は商人だ。商売のことでならお礼ができるんだが、何か望むものはないか?」

「それでしたら、こういうものを探しておりまして」

小松島は重油のサンプルをアリューシャンに見せた。

「油か?」

「はい。北方、ハットカップの町で売られているそうなのですが入手できないでしょうか」

「ハットカップというとエトゥオロオプか」

「ご存じなのですか」

「名前だけはな。商売で関係したことはないが、場所がわかっているなら取り寄せることもできるだろう。どのぐらいの量が必要なんだ?」

「まずは見本を入手してからです。見本がそれと同等のものであれば大量に購入したいのです」

「油を大量にとなると難しいな。エトゥオロオプは島だから、運び出すのには船がいる。1隻で運べる量には限りがある」

「島だったのですか?」

「「あれ?言ってなかったっけ?」」

と、シチェルとジェムザの声が綺麗にハモった。

「聞いてないよ」

「「あれぇ?」」

「・・・しかも北の海だ。寒冷地用の船舶となるとなかなか見つからんだろうから、見本の入手だけでも容易ではないな。だが恩人の頼みだ、やってみよう」

「お願いします」

そして、話はシチェルのことになる。

「さっき視力強化のスキルとか言ってたよな?あれはなんだ?」

「ああ、あたいは右目だけ視力を上げることができるんだ。普通なら両目なんだけどな、まあ稀にこういう半端者がいるんだよ」

「それも魔法の一種なのか?」

「まあ、そうだな。ジェムザのスキルは瞬発力強化か?」

「いや、脚力強化だ」

ジェムザもスキルというものを持っているようだ。

「誰でもできるのか?そういうのって」

「誰でもじゃないが珍しくはないな。ベロウッドさん、あなたのところにもスキル持ちがいるんじゃないですか?」

「たしか松吉が握力強化スキルを持っていたな、そうだろ?」

「はい旦那様」

視力強化は遠くのものがよく見え、脚力強化は速く走ることができ、握力強化は読んで字のごとしか。となると、シチェルの場合はオープンサイトの銃でもレティクルのないスコープつき狙撃銃のように扱えるということだろう。

「なるほど、あの距離でも当てる自信があったわけか」

「片目だけだかんな。だから普段は右目を隠してないと気持ち悪い」

左右の目で視力が違いすぎると感覚がおかしくなるのだろう。望遠鏡をのぞきながら両目をあけて歩いてみると、シチェルの苦労が実感できるかもしれない。

「脚力強化が片足だけ発動してたらどうなるんだろうな」

「・・・それはこわい」

「普段からまともに歩けないかも」


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