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「もういいかな?」

シチェルは三八式に弾を込めなおしたところだったが、援護射撃の必要はなさそうだった。ジェムザが薙刀を引き戻すと、腹を貫かれた匪賊はその場に崩れ落ちた。仕舞とばかりに薙刀を振り、こびり付いた血を払う。

「終わったな。行くか」

小松島は藪から出ると、ジェムザのところに歩き始めた。ジェムザは匪賊の馬車を調べ始めている。もうほかに仲間はいないようだ。シチェルは髪留めを外し、また右目を隠すと、小松島の後を追った。


「た、助けていただいてありがとうございました・・・」

匪賊に襲われていたのは商人一家だった。襲われる理由に心当たりはなく、単に金目当ての犯行だと思われる。

逃走時に馬車の耐久性が限界を迎えて前輪の車軸が折れ、転倒したようだ。無事だったのは経理担当の女性だけで、それ以外は全員が負傷している。幸い、死者はなかったようだ。

手分けして負傷者を見分、可能な限りの治療を施す。応急手当であれば艦上で慣れていた小松島の手際がよかった。

「こいつらの馬車は使えそうだ、ケガ人を載せて新静岡に向かおう」

匪賊が使っていた馬車を調べ終えたジェムザがそう報告。

「あの、旦那様は助かりますか?」

経理の女性が心配そうに小松島に訊ねてきた。

「たぶん気絶してるだけだ。だが右足は折れてるから動かさない方がいい」

「治癒魔法はだれか使えないのか?」

シチェルが経理の女性に確かめるが、いないとのこと。ジェムザと小松島が2人がかりで負傷者たちを馬車に乗せていく。作業中にひとりが意識を取り戻した。雑用係の青年だという。

最後の1人と、大破した馬車から回収した商人たちの荷物を乗せたところでジェムザが気付いた。

「しまった、御者がいない」

商人一行の御者はまだ失神している。小松島もシチェルも御者などできない。

「松吉さん、御者はできますか?」

雑用係の青年は松吉というらしい。日系人のようだ。

「やり方を見てはいましたが、できるかどうかは」

「やっていただけますか」

「わかりました」

経理の女性に促されて松吉が御者席に座る。額から血を流していたので今は布を巻いて出血を抑えている。

「全員は乗れそうにないな。私らは歩こう」

「そうだな」

負傷者を横たえて馬車を動かすと、商人一行8人と小松島一行3人全員は乗れそうにない。最後に、匪賊どもの死体に関しては放置することにした。新静岡到着後に警備兵に報告すればしかるべき処置がとられるだろう。


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