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小松島とシチェルは船員ギルド・・・座の紹介で旅人ギルドにいた。前述の案内人と待ち合わせるためである。なお、船員ギルドには座という看板が掲げられていたが、旅人ギルドには「Aaycneboda Odurig」とベスプチ語の看板があった。どうやら責任者の母語でその組織内の公用語が決まるようだ。

「コマツシマ・リュージというのはお前か?」

ベージュともカーキともいえる色のマントで全身を覆った女性が、小松島の近くの船乗り風の男性に話しかけているのが聞こえた。背中には長い棒のようなものを背負っている。長さと太さから見て槍か棍棒というところだろう。

「俺じゃねえよ」

「そうか」

小松島が名乗り出ようとしたところで、その女性はまた別の男性に声をかけていた。そしてまた人違いと聞かされている。

「小松島隆二は俺だ」

ようやく名乗り出ると、その女性は小松島を見て意表を突かれた表情をした。

「船乗りと聞いていたが、随分と細身だな」

「見張り員をしている」

「しかも女連れなのか」

「成り行きでな」

「ああ、しまった。名乗り忘れていたか。船員座から紹介されたジェムザ・フォルだ。よろしく」

ジェムザは小松島と握手を交わし、次にシチェルにも手を伸ばした。

「シチェル。・・・シチェル・アトイ」

名乗りに少々口ごもりがあったことに小松島は気づいた。偽名か、それとも単に隠したい名前なのか。小松島もフルネームを聞くのは初めてだった。

「で、これから出発準備をするのか?」

ジェムザは2人の服装を見てそう尋ねた。

「いや、準備はできている。いつでも出られる」

「いやいや待て待て、その服装で行くのはまずい」

即座にダメだしされてしまった。

「なぜだ?」

「ただの布の服だろ?魔物や夜盗に出くわしたらどうするんだ」

2人とも海軍の軍装である。もちろんただの布の服だ。

「案内兼護衛ということで引き受けたが、守られる気がないやつを守り切る自信はない。頼むからもっとまともな装備を用意してくれ」

「まともと言われても困るが・・・正直どうすればいいのかわからん」

「・・・金はあるのか?アドバイスならしてやれるが」


ジェムザのおすすめだという衣服屋に移動する。それほど重装備である必要はないが刃物を防げる程度でよいというので、籠手と脛当てにはメタルプレート。それ以外はレザーやチェインで守ることにする。シチェルにはサイズが合わないということで、布の服ではあるが魔法が組み込まれた子供用ローブを買い与える。

「参考までにジェムザの防具はどのようなものを?」

「私か?」

ジェムザは羽織ったマントを払いあげ、全身の装備が見えるようにした。

「な?!」

「おう」

今更改めて確認するまでもないが、小松島は昭和初期の生まれである。その世代に、腹出しで太腿も露わな赤いビキニアーマーは露出過多を通り越して全裸もいいところだった。もっとも、シチェルも驚いているのでこの世界でも少々過激な方に入るのか。胸部こそ首回りや肩周りまで覆われているが二の腕は丸出しである。なお、小松島の世代の水着がどのようなものであったのかは「大正時代 水着」で検索するとよいかもしれない。

「・・・それで人前に出るのか?」

「何かおかしいか?」

小松島は頭の中で「郷に入りては郷に従え」を3回ほど唱えて、ようやく平常心を取り戻す。ジェムザはさらに装備品について確認してきた。

「武器は短剣と、その背中の・・・棍棒?でいいのか?」

小松島は腰に三十年式銃剣を吊り下げている。シチェルにも支給はされているのだが、長すぎて明らかに邪魔なため合切袋の中だ。もちろん魔法陣も収納してある。

「ああ、これでいい。使い慣れない武器はかえって危険だ」

「ならいい」

「まー、あたいはさっき初めて触ったんだけどな」

慣れてないにもほどがある。

「一応荷物入れも確認させてくれ。旅慣れてないのはよくわかったから」

ジェムザに合切袋の中を確認してもらう。食料については見慣れない保存食に首をかしげていたが、それ以外は問題なしとお墨付きをもらった。

「よし、では行くとするか」


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