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夕暮れ前に、日峰が大量の食糧と共に帰艦した。それを見た乗組員から歓声が上がる。

「おう日峰、ご苦労だった」

「ただいま戻りました。・・・上等兵殿は今からお出かけですか?」

「さらに別命が下ってな。数日戻らん」

「何があったのでありますか?」

「代金の支払いのために新横浜まで行く。そのあと新東京にある皇室海軍本部、最後に石油の調達のためにハットカップに行ってから帰ってくる」

「数日で済むのでありますか?」

「1か月で済めば御の字だな」

「どうかお気を付けて」

日峰は敬礼した。

「まあ色々大変なことがあるだろうが、うまくやってくれ」

小松島も答礼する。シチェルがそれを真似ていた。

「さて行くか」

「あいよー」


さて、小松島とシチェルの行動予定については本人が述べた通りで間違いないのだが、出発までに決まった諸々についても記しておく必要がある。

まず、ルイナンセーからウシアフィルカスの自由行動に必要な魔法陣が届いていた。艦長がこれに署名し、シチェルがこれを携帯している間は艦から離れて行動できる。身から離すと呼吸困難や意識混濁等の警告症状が現れ、これを放置すると死亡するという代物だ。ウシアフィルカスは船と契約させることで生贄となるのだが、契約対象の船を変更するだけならともかく、契約を解除できる魔法使いはかなり高レベルの人物だけで、ルイナンセーといえどもほいほい呼び出せる相手ではないそうだ。

次に活動資金だが、朝霜に搭載された金塊を2つ持ち出した。それですら足りるかどうかはわからないが、これが今のところ艦の生命線と言ってもよい。座の好意で売却代金の一部を先に現金として受け取っており、小松島とシチェルの旅費に充てることができた。本当は4人ほど出したいところなのだが、旅費の節約のために2人で行かせることになった。とはいえ本当に2人旅をさせるわけにもいかず、この世界に詳しい人物を案内人として雇うことになっている。

最後に武装だが、元々朝霜は沖縄到着後に乗組員を陸戦隊として使う予定であったため、十分な武器弾薬が搭載されていた。といっても敗色濃厚な時期のことであり、それなりに十分といったところである。具体的には工場から出荷され倉庫にしまわれた後点検すら行われていない三八式歩兵銃とその弾、士官用に94式拳銃、あとは手榴弾ぐらいだ。他にも鹵獲品や、素人が見ても粗悪品とわかるナイフ等が雑多に詰め込まれたドラム缶がひとつあり、これの中身は全く点検されていない。戦局の悪化具合によっては使い古しのオンボロ銃が支給されてもおかしくないというイメージがあるが、使い古しを前線から戻せるほど余裕があるうちはまだマシなのだ。日本にはその余裕すらないということである。主計兵が点検・試射してくれたのでまともに動く三八式を2丁受領することができている。シチェルに預けていいのかどうかは士官たちの間でも意見が割れたが、艦長が許可した。メイジニッポンは外地、しかも日本どころか世界の常識すら通じない場所であり、武装なしでの行動は危険だということと、シチェルの石油の知識はどうやら余人をもって代えがたいらしいので自衛ぐらいはできてもらわねばということが理由である。


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