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「コマツシマsan!お待ちしteおりまシタ!」
室内に並んだテーブルのひとつに、ルイナンセーとコスミオ、執事の3人がすでに待機していた。
「書類の用意はできていますから、あとは船員名簿を添えて提出するだけです」
執事が必要書類一式を整えてくれていた。
「ここまでしていただいて助かります」
「いえいえ、この程度のことはなんでもありませぬ」
金長が書類を纏めて、カウンターに提出しに行った。その間に小松島はこれからのことについて相談する。
「ルイナンセーさんはこれからどうされるのですか?」
「護衛の砲船が全て失われてしまったので、何隻か雇わないといけません。ウシアフィルカスの補充も必要ですから、短く見積もっても2週間は足止めです。・・・ああ、ウシアフィルカスと言えばそちらのウシアフィルカスは下船手続きを行いましたか?」
「手続きがいるのですか?」
「お譲りした際に神官による契約魔法を発動しましたよね?あれをすると、ウシアフィルカスは下船できなくなるのです」
できないと言っても、もう下船しているのだが。小松島の表情がそう語っているのを読み取ったのか、ルイナンセーは詳しい話を続ける。
「正確には、船から離れられなくなります。船が視界に入る程度の距離なら大丈夫ですが、それ以上遠くなると契約違反のペナルティで死んでしまいますよ」
いきなり死ぬのか。さすがにウシアフィルカスの扱いは相当厳しい。
「手続きはどうすればよいのですか?」
「船長が下船許可の魔法陣に署名することで完了します。魔法陣はお持ちでないですよね、差し上げましょう」
「何から何まで本当にありがとうございます」
もはやルイナンセーは朝霜の水先案内人である。
「で、アサシモの皆さんのご予定は?」
「それなんですが、ご相談がいくつかありまして・・・」
艦長が小松島に与えた任務は複数ある。
1、燃料の調達と食糧・水の補給。2、乗組員の上陸許可を得ること。かつ、可能な限り行動範囲を広く確保する。3、人員の補充。
2についてはどうやら容易に達成できそうだ。そして3については、艦長と小松島で話し合った結果別の意図が盛り込まれることになった。
「ウシアフィルカスの調達はどこでできるのでしょうか?」
それは、なるべくウシアフィルカスとして扱われている人の中から雇用することである。どうせ素人に一から仕事を教え込むのであれば、少しでも不幸な扱いを受けている人たちを助けるためにできたらいいと考えたのだ。
「このギルド・・・あー、ザで補充できますよ」
表の看板の座とはギルドのことだったようだ。現代語で近いのは組合や互助会というところか。
「物資の補充もできますか?」
「もちろんです。船のザは船舶の運用に関することなら何でも請け負ってくれますよ」
とはいえ、鉄でできた船の修理や石油で動く船の燃料補給はやってくれまい。
「皇国海軍と連絡は取れますか?」
これが4つ目の任務。可能であれば組織の一員として行動したいという意図があった。今回はそのことを隠さずルイナンセーに伝えてみる。
「鉄でできた船というだけでも強力な存在ですからね。どこの組織でも諸手を挙げて歓迎してくれるでしょう。一応お聞きしますが、ベスプチの海軍に所属する気はありませんか?」
ルイナンセーはベスプチ人であるから、自国に取り込みたいという気も少なからずあるのだろう。だが、できればやはり同一母語の国に所属したいものである。
「艦長は選択肢のひとつとして考えてはいるようです」
「その際にはぜひヴェルモット領に配置願いたいものです」
そうなるとルイナンセーの私兵のような扱いになるのだろうか?




