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「小松島上等兵殿、佐多大尉が羅針艦橋でお待ちです」
「わかった。金長、日峰、すぐに会談の内容をまとめておいてくれ」
「はい、清書しておけばよいのですね」
「そうだ。艦長に見せられるようにな」
「Uma ia ugnioog uulot?」
シークは小松島に何かを尋ねているようだが、意味はわからない。訳本によると「イア」が「私は」という意味になるようだが、それ以外の言葉は載っていなかった。
「あー・・・オーロフ・イイミ」
ついてこい、だけは覚えた小松島だった。
「お前の不在中に大事なことがひとつ決まった。ベスプチの船団が先導してメイジニッポン皇国に連れて行ってくれるそうだ。」
「ベスプチ・・・ああ、あちらの船籍でしたか」
「現状、あちらの船団をベスプチ船団と呼称することにした。救助した乗組員も全員引き渡したし、とりあえず差し迫った問題は解決している」
「何よりです」
「で、収穫は?」
「金長と日峰にまとめさせて報告します。とりあえずメイジニッポン皇国についてですが、日本と無縁ではないことは確かなようです」
「確かなのか」
「そう判断しました。根拠については今2人がまとめています」
「そうか。で、ウシアフィルカスについては?」
佐多大尉はシークをちらりと見ると話題を変えた。
「それが少々胸糞悪い話でありまして・・・ここで話してもよくありますか?」
「いいだろう、説明しろ」
生贄の話、境遇の話、一般的な扱われ方の話、そしてやけに無口だった訳。
「・・・本当に奴隷扱いだな」
「聞いた話では奴隷とはまた別なようですよ。奴隷はお金でやり取りされるとはいえ一応人間扱いされているけど、ウシアフィルカスは完全に物として扱われているとか」
ルイナンセーはウシアフィルカスの日持ちと運搬の効率性を重視していたため、あれでもましに扱っている方なのだそうだ。ひどい船長になるとスペースの節約のためだけに四肢を切り落として物置に詰め込むことさえあるという。
「そりゃまたむごい話だな」
「郷に入りては郷に従えが海軍の教えでありますが、さすがに限度があります」
「むぅ・・・一応聞くが、あちらのやり方についてケチをつけたりはしていないな?」
「不快感は伝わってしまったかもしれませんが、言葉にはしておりません」
「ならよいが。確かに我々はあちらさんを助けたが、これからは助けてもらう側だからな」
ちょうどそこで、戦死者の水葬を終えて航行再開可能と連絡が入った。
「よし、ベスプチ船団を見失わないように追尾する。前進半速」
「ヨーソロー前進ハンソー」




