あとがき
最後まで読んでいただけたこと、本当に感謝です。
二次創作SSや小説は何度かネットに掲載したことがあるのですが、完全オリジナルは初めてだったのでいろいろと「やめときゃよかった」「やればよかった」を残してしまいました。
序盤で現代日本と戦中日本とメイジニッポンの貨幣価値についてのエピソードを何度か盛り込みましたが、その後さっぱり設定として登場しなくなったのが「やめときゃよかった」の代表です。細かく計算すると物価に無理が出てくるので避けるようになり、価値を婉曲的に表現するにとどめるようになりました。
文中にたびたび軍艦エピソードが混ざっていますが、もっと出してやりたかったというのが「やりたかったこと」です。ミリオタでもない限り「大和」は別格として「武蔵」「雪風」あたりまでならともかく、それ以上知っている人はなかなかいないと思います。濃ゆいエピソード持ちの艦だけでももっと知ってもらいたい、という思いはかなり強いので、連載途中に軍艦コラムとして何回か挟むことも考えておりました。
「開戦後に改造しすぎてアメリカ軍が識別不能となった某空母」や「味方の戦艦に誤射したのが気まずかったので護衛任務を外してもらった某駆逐艦」については実際に執筆しましたが物語のテンポを崩さないためにお蔵入りとしました。とはいえ単体の小説とするには短すぎるし、このまま静かに眠ってもらおうと思います。
軍艦の知名度で言えば駆逐艦朝霜はおそらく下の上か中の下あたりではないでしょうか。お世辞にもメジャーとは言えないでしょう。にも関わらず主人公メカとして抜擢したのは、「最期が明確になっていない水上艦」だというのが最大の理由でした。実際には99%間違いなく沈没しているはずですが。
なろうガイドラインに「存命の人物を題材としてはならない」というものがあるので、生存者がいる艦は万が一のことを考えて不採用。生存者ゼロの艦といえば朝霜以外だと「鳥海」「香取」「藤波」「初月」が思い浮かびましたが、いずれも最期がアメリカ側によって確認されているため異世界に転移してもらうわけにはいきません。あとは「舞風」がいますが、こちらは本文中にちらりと名前だけ搭乗させることができています。潜水艦は砲雷撃戦の描写が難しいので採用できず。非戦闘艦だと候補がいっぱいいるのですが、さすがにマニアックすぎる。
なおガイドラインをチェックする前の構想段階では他に「信濃」「熊野」が候補になっていましたが、戦没したことがはっきりしているとどうにも扱いづらく却下しました。信濃のほうは今作とは全く別の展開で、あらすじを一言で言えば「異世界で日本軍の戦闘機が無双する」でしたが、類似の作品を後日知ったのでやめておいて正解だったなと。今後も執筆の予定はありません。
キャラクター設定について、あとで気づいた失敗。メインヒロイン3人の名前が全員サ行、というかシで始まること。名前を決める時に周りを見渡して、そこにあるものから取ったので本当に偶然なのですが。
シチェルはウクライナ戦争のニュースに登場した地名由来。ジェムザは抗がん剤の名前。しらねは苗字の黒崎が先に某警察ロボットの悪役さんから採用となり、黒に対する白がつく名前として思いついたことで。
他の面々はほぼどこかの地名由来です。
主人公小松島隆二について。最後まで年齢を描写しなかったのは、当時の日本海軍でこういう経歴の上等兵がどのぐらいの年齢なのかを把握できなかったからです。海軍乙事件に触れたり陸上勤務経験があったりという設定が後付けされたことで、下手に年齢を固定できなくなってしまいました。「オッサン扱いしていいのか悪いのか微妙なお年頃」を想定しております。
なお135話、「門司」「酒」のワードでピンときちゃった軍事マニアの方へ。確かにそのエピソードをイメージして書きましたが、あれは朝霜戦没後の出来事なので小松島隆二は関与しておりません。詳しく知りたい方は伊号第十四潜水艦について独自に調査されたし。
シチェルについて。本来の展開はシチェルが帰郷し親子再会、在庫の重油を譲ってもらえて第一部完めでたしめでたし、でした。シチェルの故郷がやたら詳しく設定されているのはその名残ですが、どこで話が逸れたのか自分でもよくわかりません。めでたいどころかとてもひどい目に遭って幕ということになってしまいましたが物語としては「贄にされた少女」設定を使い切ることができて、うまくまとまったと思っています。
ジェムザについて。小松島の旅で人とのつながりが必要になったらまずこの人の人脈に頼っておけばお話が進むという便利なポジション。ガイドと言うより受付嬢のポジションに収まってしまったかな?こんな実戦的な受付嬢は困るのですが。
しらねについて。植物との対話とか元偵察兵とか水中活動可能とかの設定はどれもその場限りの思い付きだったはずが、どれも物語の分岐点で重要な役目を担うことになりました。この人なしには旅が終わらなかったでしょう。唯一使わなかった設定はトレント族との関係かな?結局同じカズラ族の人と出会うこともなかったし。
朝霜に搭載された物品について。金塊に関しては本編あとがきで触れましたが、それ以降登場したもろもろについてはいちいち書きませんでしたが全て架空のものです。
日本陸軍仕様のルガーは実在(した筈)ですが、小滝司令(実在した人物)が入手していたという設定はフィクション。三八式歩兵銃は沖縄戦に備えておそらく搭載されていたと考えますが、根拠となる資料を見たわけではありません。一行だけ登場した百式機関短銃は希少すぎるのでたぶん搭載されていません。なお、百式「短機関」銃と間違える方がしばしばおられますが、百式「機関短」銃が正式名称。そのほかの拳銃については、当時の日本は世界有数の拳銃大国だったのでおそらくありえたであろうとは思います。
構想段階で予定していたエンディングについて。予定されていた第二部は燃料の心配がなくなった朝霜がゲルリンやガリアルといった諸列強国をめぐる海洋冒険譚となる予定でしたが、その詳細なストーリーについては全く詰めておらず、エンディングで短く語るにとどまりました。もしかしたら作品タイトルで期待したストーリーはそっちだったという方のほうが多いかも?今後追記するかどうかは未定。
ベスプチ語について。きちんと確立されたルールに基づいて作ってあるので、暗号解読が得意な人なら復号化できると思います。ベスプチのモデルはもちろんアメリカですので、英語が若干絡んでおります。
以上、心残りと言うか、誰かに聞いてほしかった裏話でした。何年か後に自分で読み返して、「ああああああ」となるか「懐かしいなー」と思うかはわかりませんが、楽しんでいただけたなら嬉しいです。
最終回時点での朝霜




