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朝霜は3度にわたる空襲をしのぎ切った。が、第4波の攻撃がついに朝霜を捉えた。

2番煙突の後方に1発、続いて艦尾に1発。

「右上方にヘルダイバー!」

急降下爆撃機2機が朝霜艦橋を狙って高度を下げる。朝霜は取り舵によって回避行動に移った。

「機関室との連絡がつきません、恐らく艦内電話断線!」

「小松島上等兵、伝令に走れ!」

「小松島、機関室へ向かいます!」

羅針艦橋付見張り員の小松島上等兵が艦橋を出た瞬間、対空射撃中の機銃が米軍機が投下した爆弾を偶然にも射抜いた。閃光と爆風。

「うぉっ・・・!」

小松島は爆風をもろに受け、前部甲板から降りるラッタルを転がり落ちた。咄嗟に頭を抱える態勢をとったために負傷は免れた。

「う・・・」

体を起こすと、さっきまでの騒音が嘘のように静まり返っている。爆風で耳をやられたことに小松島が気付くまで数秒。そして後ろを振り返り、羅針艦橋が視界に入った。

「・・・!」

艦橋から数メートルしか離れていない空中で起きた爆発が、羅針艦橋を巻き込んでいた。次の瞬間、何かが誘爆したのか天蓋が吹き飛び、射撃指揮所と測距儀が宙に舞った。

「艦長・・・司令!」

小松島隆二上等兵は体を起こすとラッタルを駆け上がり、羅針艦橋へと戻る。そこには、小滝駆逐隊指令、杉原艦長、その他羅針艦橋要員らの遺体が転がっていた。小松島は拡声器を掴むと、出せる限りの声量で艦全体に報告を行った。

「か、艦橋被弾!艦長および駆逐隊司令部全滅!」


報告を受けた各部署から応援の兵員が送られてくる。が、全員が操艦とは無縁の部署員であり、見張り員として羅針艦橋に配置されていた小松島が、上等兵でありながら指揮を執ることになった。

「上等兵殿、機関室との連絡つきました」

中田実二等兵が艦内電話を修理することに成功したようだ。

「敵の攻撃がやんだ今のうちに離脱したいが、何ノット出せますか?」

「12ノットまでよし」

佐多大尉が自ら回答してくれた。

「よし日峰、半速まで上げろ」

「半速了解」

今は日峰勝二等兵が朝霜の操縦を担当している。5分ほど様子を見る。

「原速」

「減速します」

「ん?」

指示が伝わらなかったことに気づいて訂正する。艦内電話のベルが鳴った。金長周平一等兵が受話器を取る。

「第一煙突からの煤煙が探照灯台を直撃するから気を付けてくれと」

「んなもん知るか」

第一煙突は被弾によって上半分がもぎ取られている。煙突が低くなったので、煙がうまく流れなくなったようだ。

「機関室から連絡、もう少し余裕がありそうだとのこと」

「前進強速」

さらに加速する。14ノット。16ノット。

「第一戦闘速度」

18ノット。振動が大きくなってきた。

「大丈夫なのかこれ」

機関室に問い合わせたところ、このあたりが限界ではとの答えを得る。

「無理をせず強速にしませんか」

「・・・いや、このままでいこう」

「了解」

とにかく本隊との合流を優先するという判断で、小松島は朝霜が現在出せる最大の速度を求めていた。


本文中で機関室という単語が今後も頻出しますが、厳密にはそのような部屋はありません。本作中では第一・第二・第三缶室、前部・後部機械室、電源室の総称として使用しています。手持ちの資料から、同型艦である大波と準同型艦の秋雲の船内側面図・平面図を参考としましたが、なにぶん手書きが当然の時代の資料の縮小コピーのコピーなのでつぶれて読めない字が多く、読み取り誤りがある可能性についてはあらかじめお詫びしておきます。

(ぶっちゃけるとマニア以外の方が〇〇型駆逐艦を見分けるのは、朝潮型から夕雲型までについてはほとんど誤差レベルの違いしかないので至難の業です)


2025/8/24

速度指示について誤字指摘がありましたので追記。

「原速」「減速します」のやりとりは変換誤りではありません。

半速(9ノット)、原速(12ノット)、強速(15ノット)の順で速度が上がるので、機関の具合が不明なため少しずつ負荷をかけて様子を見つつ速度を上げていくのですが、艦橋要員が全滅し未経験者寄せ集めの状態では原速を減速と聞き間違えることもある(9ノットから12ノットに加速せよと指示したはずなのにスピードが落ちていれば、指示が伝わっていないことにも気が付くだろうと)という演出です。


もうひとつ追記。

本文執筆時点では朝霜竣工時の写真とされていたものが、どうも同型艦の秋霜らしいということがわかったようです。(山崎剛氏による分析。モデルアート社「艦船模型スペシャル」92号)

マニアどころか専門家でも見分けがつかないなんてことは、この分野ではよくあるのです。

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