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シチェルは赤坂軍医・魔法使いと共に畝傍の医務室に運び込まれたが、しばらくして魔法使いが出てきた。

「輸血が必要です、血液型が一致する方を探さないと」

「わかった」

「今は血液型を検査中です、結果が出たらすぐお伝えしますので」

小松島にできることはあまりない。なので、少しでも手伝えることがあったら引き受けたいところだ。

輸血は血液型が一致しないとできないという考えが一般的だが、実はO型だけは他の血液型の代用として使用することができる。あくまで代用なので緊急時以外は実施できないが、もしもに備えて献血可能な人をなるべく多く集めておきたく、小松島は下艦した。畝傍の外、秘密ドックはなぜかとても騒がしくなっていた。

「町にギガントサイクロプスが出たらしいぞ」

「あんなのが来るわけねえだろ、流言飛語だ」

「膨大な死者が出たらしい」

「赤いビキニアーマー女が倒したらしい」

「軍が大規模爆破魔法を使って倒したって聞いたぞ」

あっという間に無責任なうわさが広がっている様だ。

「小松島上等兵殿」

ルアーブルが小松島に声をかけてきた。

「シチェル殿が大変なことになったようじゃの」

「ええ、ちょっと・・・」

「何があったのじゃ?諍いがあったようには見えなんだが。聞いた話では、何の前触れもなく突然倒れたと」

「はい」

「・・・シチェル殿はウシアフィルカス。突然に重傷を負って生命の危機。ということは、朝霜艦に何かあったのではないか?」

「あっ」

小松島はそっちのほうには考えが至っていなかったが、自身もウシアフィルカスであるルアーブルにはピンと来たようだ。顔色を変えた小松島が朝霜の心配をしていることを察してルアーブルは続けた。

「まあ、シチェル殿が害を受けたということは、朝霜艦は一時的に致命的損傷を負ったものの今は健在であるということじゃろう。そちらはそれほど心配することもあるまいて」

「た、確かにそれは・・・。で、では今はやはりシチェルの心配をしている場合ですね」

「赤坂軍医は経験豊富な医師じゃ。現場で看取らずに医務室に運び込んだということは勝算あってのことじゃろうて。他にやるべきことがあるならそちらに専念いたせ」

「はい」

献血者の募集が最優先となる。ギガントサイクロプス出現の知らせ(情報伝達にタイムラグがあるので、この時点ですでにすべて撃破済みであるが秘密ドック内には伝わっていない)に浮足立っている冒険者やドック作業員らに声をかけ、血液提供者を募っていく。そうしているうちにシチェルの血液型が判明。適合した人には畝傍に乗艦してもらい、献血してもらう。

「ギガントサイクロプス、一匹じゃないらしいぞ」

「あんなのがいっぱい出てくるとか想像したくもねーな」

「いざとなったら地下遺跡の方に逃げるといい。あの巨体なら入ってこられんだろ

外の様子も気にはなるが、シチェルのほうも心配だ。

「おーい、隆二くん。次の墨油が来たぞ」

顔なじみとなった作業員が小松島を呼んでいる。内火艇以外の手漕ぎの舟でも遺跡からドックまで樽を運んでいるので、次のが来たようだ。

「予定の時間を過ぎても戻ってこないから何が起きたのか心配してたぞ」

「あー、その。シチェルがちょっと」

ウシアフィルカスの地位を考えるとどこまで説明していいものか。冒険者たちが協力してくれたのはそうと知らずだからかもしれないのだ。

「ん?何か知らんが時間かかりそうか?」

「まあ、すぐには戻れそうにないかもしれません」

「わかった、じゃあ皆にはそう言っておくよ。こんなにたくさん作るとは思っていなかったって人が多いからさ」

大量生産するということは募集時に伝えていたはずであるが、皆が想像していたのはせいぜい1トン程度であろう。まさか朝霜の限界搭載量である最大800トン作ることになるとは思っていなかったはずだ。


その朝霜は、いよいよ燃料の残りが心もとない。先ほどまでの猛ダッシュでかなり浪費したため、艦の挙動にも影響を感じる程まで減少したようだ。以前にも記した通り、これほど燃料が減るまで無補給で行動するということはまずない。

「なんだかふわふわしますね」

「うーむ、これは初めての感覚だな」

なので、全員が未経験の揺れ方に戸惑っていた。

「魚人らの動きから見て、秘密ドックはあのあたりですかね」

双眼鏡で第一新東京港の方を見ると、不自然に地形が変わっている岸壁があった。まだ死角になっているあたりに入り口があるのだろう。

「右側の魚人、接近しすぎだ」

進路を示し誘導してくれるマーメイド族、左右に展開し浅瀬などの位置を警告してくれるマーメイド、そして前方に見えてくるはずの秘密ドック。監視しなければならないものがたくさんあるのは間違いない。また、乗員の半分以上は第三新東京港で徴用した奴隷やウシアフィルカスである。そして、戦闘直後で意識の切り替えが遅れている。おまけに燃料不足で不穏な動きをするようになった艦体。これらの悪条件が重なったとはいえ、油断が許されるわけではない。にもかかわらず、誰一人として、後方から猛追してくる内火艇の存在には気づかなかった。このため、その船上から日峰としらねが必死に信号を送っていても、朝霜には伝わっていなかったのである。なお、本来はいきなり本文に入ることはない。まずは起信と呼ばれる振り方で呼びかけ、信号を受け取る準備をしてもらうことになっているのだが、日峰は聞きかじりだししらねは言われた通りに振っているだけなのでそのあたりの作法については認識がなかった。


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