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小松島とシチェルを乗せた内火艇が、秘密ドックに接岸した。毎度のことなので皆手馴れていて、すぐさま積み荷の樽を降ろしにかかる。
「なんか騒がしくないか?」
「外で何かあったみたいですよ」
「へぇ」
ギガントサイクロプス出現のことは、ここの一同には伝わっていないようだ。
ところで、シチェルはウシアフィルカスである。
「5秒前」
朝霜の左タービンは、もう限界に達しつつあった。
「よし、キエツスフェブ食べに行こうぜ!」
「待て待て、内火艇を係留してからな」
「4秒前」
船が致命的損傷を受けた際に、代わってその被害を受けるために魔法で契約させられた存在。それがウシアフィルカス。
「小松島さん、町に出るなら気を付けた方がいいですよ。何かあったみたいですから」
「らしいな、さっき聞いた。ついでに見回ってくるか」
「3秒前」
タービンの破損は、機関部全損の可能性もある致命的損傷だ。先に例を挙げた巡洋艦酒匂は、その事故によって中破判定を受けている。駆逐艦より大きな巡洋艦でも中破なのだ。
「シチェル、一応三八式を撃てるようにしとけ。使い方忘れてないよな?」
「忘れてねーよ、大丈夫だ」
「2秒前」
「減速よーい」
「じゃ行くか」
「おう」
「1秒前」
そして、朝霜のタービンブレードのうち1枚が、ついに折れ飛んだ。破片は他のブレードを巻き込んでタービン内を破壊しつつ、壁を突き破る。
「あ、そういや隆二」
「あん?」
小松島がシチェルに視線を振った、その瞬間。シチェルが爆発した。




