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「よー隆二」

「なんだシチェル、どうかしたのか?」

地下遺跡の水没部分を往復して重油の詰まった樽を運んでいる小松島であったが、次に運ぶ分を積み込んでいるところにシチェルがやってきた。

「ちょっと息抜きに街に出たいんだよ、いいか?」

シチェルはずっと遺跡内で油石から重油を取り出す作業に従事してくれている。息抜きぐらいは当然必要だろう。

「何か食べに行くか」

「いいねぇ、こないだのキエツ・・・ス、フェブ?あれまた食べたい」

だいぶお高かったので容易に手が出せるものではないのだが、シチェルは無報酬でがんばってくれているのだ。そのぐらいは食べさせてやらねばなるまい。

「店の場所覚えてるか?」

「だいたいは」

「じゃあまあ、行って探してみるか」


ちょうどその頃、新東京はパニックであった。遠くからも見えていたギガントサイクロプスがついに町に足を踏み入れたのである。来ると分かっているのだから逃げればよいのにと思うかもしれないが、それほど身軽に動ける人間はほとんどいない。しいて言うなら拠点を持たずに活動しているフリーの冒険者たちであれば迅速に避難できるだろう。実際そうだった。そのおかげで、新東京はノーガードでギガントサイクロプスを受け入れる羽目になっていた。もちろん魔物除けの防壁もあるのだが、ギガントサイクロプスの膝あたりの高さでしかないので簡単にまたいで通れてしまう。

「金長隊より朝霜へ。ギガントサイクロプスが迫っている。救援まだか」

日峰が無線連絡で助けを呼んでいるが、朝霜の回答は『急行中』のみであった。

そもそもなぜギガントサイクロプスが新東京を目指して南下するようなことになったのか。突発的な出来事のように見えるかもしれないが、実は大本を辿ればスタンピードが原因である。スタンピードとは弱い魔物らの数が増えすぎて生息圏から溢れることを指すが、溢れた分だけが近くの都市になだれ込むわけではない。例えば100匹しか住めない地域の魔物の数が、何らかの要因で120匹になると溢れた20匹がスタンピードを起こす・・・のではなく、その20匹に釣られた40匹程度が後を追い合計60匹が暴れ出るのだ。結果、100匹住めるところに60匹しかいなくなる。こうなると、その弱い魔物を捕食していた強い魔物のエサが減り、生息圏を超えて活動するようになる。しばらくこの状態が続いたあと自然に元の状態に戻っていくのが通常であったが、今回はその強い魔物らをたいらげる冒険者集団がいた。そうなると、その強い魔物を捕食していたもっと強い魔物らがエサを求めて生息域を出ることになる。つまり、ギガントサイクロプスが普段は近寄らない新東京まで姿を見せることになるわけだ。

そんな生き物の仕組みなど知る者はこの時点では誰もいない。

「まずいですよ、もうそこまで来ています!」

ギガントサイクロプスのうち1体が、第一新東京港に迫ってきていた。悪いことに山側から迫ってきており、町側からは他の個体から逃げようとやってきた人らが殺到していて逃げ道などない。

「あいつ、人間食ってやがる・・・」

ギガントサイクロプスは手近な人間を捕まえると、そのまま口に放り込んで咀嚼している。明らかに新東京を餌場と認識している。

「朝霜は!」

ほとんど悲鳴のような救援要請を送るが、やはり返答は「急行中」であった。


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