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運ばれてきた水を飲み、日峰と金長にも飲ませる。もちろんウシアフィルカス・・・シークにもだ。
「なかなかうまい水ですね」
「本船の調理魔術師は優秀ですからね」
調理まで魔法に頼っているらしいという新情報発覚。
ところで、いつまでもウシアフィルカス情報にこだわっているわけにもいかない。
「では、次にお尋ねしたいのは・・・」
「お待ちください、立ち話を続けるのは失礼に当たりますので船室へご案内いたします」
乗船の挨拶から話が流れて随分と話し込んでしまったが、招待を受けることにした。
「えーと、『ついてこい』は・・・」
シークには小松島が命令しないといけないようなので、訳本をめくる。
「オーロフ・イイミ」
シークは歩き出した小松島のあとを無言でついてくる。通じたようだ。そのあとに金長と日峰も続いた。
ウシアフィルカスについての話に続いて、メイジニッポン皇国について詳しく教えてもらう。
この世界には約300の国があるが、そのうち5つの国がいわゆる列強と呼ばれる存在だそうだ。最も古い歴史を持つのがブリティ王国で、人類史の最初期に建国され未だに存続している古代国家。魔法技術では世界一の水準を誇り、実際優秀な魔法使いを多数他国に派遣しているが、その習得は自国民に限られており門外不出とされているものが多いらしい。
逆に最も若い列強国がベスプチ連合州国。13の国が共同で設立した国が地下資源力を武器に急激に大国化し、現在はその13カ国が上州、37カ国が下州として1つの国家を成立させている。経済力は地下資源の裏付けによって世界一で、ルイナンセー・ルイナントカの実家ヴェルモット家は希少鉱石の鉱山を複数所有する名家だそうだ。
ガリアル君主国は王の権力が圧倒的に強い農業国で、世界の食糧庫と呼ばれている。ベスプチ連合州国とは不仲だが、お互いに自国にないものを相手国に依存する関係上戦争に踏み切るわけにもいかず冷戦状態。
ゲルリン連邦国はガリアル君主国と国境を接する一大工業国だが、資源も食糧も全くと言ってよいほど持っていないため各列強国との貿易は国家の生命線である。逆にその工業力を手に入れることが列各国の生命線にもなっており、ゲルリンを味方につけた国が5列強の中で最も力を振るうことになるだろう。
メイジニッポン皇国は列強の中では2番目に古い。もっとも、30年ほど前に国名を変更する大政変があったようで、これを新国家の成立と見なすならベスプチ連合州国より若くなる。大政変前はマソ王国という取るに足らない後進国だったのだが、数々の技術革新によって短期間で国力を数倍に増し、列強国と呼ばれる地位に上り詰めた。
「大政変時に公用語をニッポン語に定め、実権のない皇帝が地方の王を取りまとめる政治体制となっております。技術革新については帆のない船が動くのを見たという噂を聞いたことがありまして、アサシモ号を見たときはてっきりそれかと思ったのですが」
「メイジニッポン皇国の国旗はこれですか?」
小松島は日の丸を見せた。
「いえ、このようなものです」
ルイナンセーが描いた絵は、植木鉢からサボテンが生えているような絵だった。
「兄さんは絵が苦手でして」
ルイナントカは苦笑するとそう言って描きなおした。
「菊水紋・・・」
その絵はまさに十六葉八重表菊の下半分を水で流した菊水紋であった。日本では楠木家の家紋であるが、もうひとつの使い道として国家存亡の危機に際して戦地に挑む軍団の紋章として使われることがある。朝霜は数時間前までこの紋章を第一煙突に掲げていた。沖縄に向かい、戦艦大和を浮き砲台として用いて米軍の進行を阻止する最終決戦のために。
「メイジニッポン皇国はどうやら、我々とゆかりのある国とみて間違いないようです」
「でしたら、我々と共に向かいますか?」
「個人的にはそうしたいと思いますが、最終判断は艦長が行います」
「ごもっともです、おかしな提案をしてしまいました」




