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「ギガントサイクロプス?3回ほど倒したことはあるが」

と、休憩中のフィリノは豪語するが、それをきいていた冒険者たちのほとんどは信じていない。だが、フィリノのちょっとおかしい強さを見てきた数人が、もしかしたら本当にと考えてたずねた。

「どうやったら倒せるんですか、あんなの」

「そりゃ目を潰して喉を裂けば死ぬだろ」

普通のサイクロプスは大きくても5メートル程度だが、ギガントサイクロプスは30メートルを超える。ほとんどの魔法は顔まで届かないし、弓でもまともに狙える距離ではない。

「それをどうやればいいんですかって」

「実演できればそれが一番なんだがなあ。そうそうお目にかかれるやつでもないし」

「いや、見えますよ?」

冒険者のひとりが、採掘現場から離れた場所を指さす。木々が生い茂っていてほとんど見えないが、確かにはるか遠くに薄緑色の頭が動いている。間違いなくギガントサイクロプスだ。

「うわ、本当にいやがる」

「・・・ちと遠いな。誰かこの近くまで釣りだしてくれないか」

「無茶言わないでください」

「・・・じゃあ仕方ないな、ちょっとやってくる」

フィリノが立ち上がって装備を整え始めたので、皆はようやく本気でギガントサイクロプスを倒しに行くようだと察した。

「今回は角膜無傷で確保する縛りプレイでやってみるわ」

「本気ですか」

ギガントサイクロプスの眼球を覆う角膜は、その入手難易度も相まって極めて高価な素材である。一式陸攻の機首部分の窓ガラスとほぼ同じ大きさになるが、これを装甲馬車に取り付けるとそこらの魔物の攻撃などでは傷もつかず、かつ視界が非常に良くなるので軍が高値で買い取ってくれるのだ。もちろん正規軍だけでなく傭兵や運び屋にとってもぜひ手に入れたい逸品であるから、値が吊り上がるのだ。

ただし、近接戦闘メインのソロ冒険者が挑むなど正気の沙汰ではない。まさかと言う気持ちと、もしやという気持ちが半々の冒険者たちだったが、フィリノは2日後にそれを成し遂げて帰ってきた。

「うへぇ、現物初めて見た」

さすがにこれはすごすぎる戦果であり、話を聞いた冒険者たちが次々と見にやってきていた。フィリノは警戒することもなくギガントサイクロプスの角膜を放り出し、冒険者たちの好きにさせているが、まず盗まれることはないだろう。未加工のものであれば希少すぎて、本来の持ち主が誰なのかはすぐに知れ渡ってしまうからだ。

「フィリノさん、これどうするんすか?普通に座に持ち込んでも買い取ってもらえませんよ」

普段でも高価すぎて容易に買い取れない物であるが、今はどこの旅人座も資金難なのでなおさらだ。冒険者たちがこぞって高価な素材を持ち込みまくる異常事態であるので、各旅人座の金庫が空に近い状態になっている。

「まあ商人座に持ち込んでオークションってところだろうな」

「そっちのほうが高く売れるかもしれませんね、今なら」

実は今、荒稼ぎした冒険者たちが散財することでメイジニッポン皇国全体で大金が動き、経済が一気に活性化中なのだ。金はその額よりも流動性のほうが経済政策上重要だったりする。

「ん?」

ギガントサイクロプスの角膜で盛り上がっていた冒険者のひとりが、何事かに気が付いて遠く西の方を見つめ始めた。それに気づいた者から同じように西に視線を向け、硬直する。

「どうした?」

そうして、フィリノを含め全員が、ありえない光景に唖然とすることになる。ずっと西の方、おそらく新東京の北方あたりに、ギガントサイクロプスが多数うごめいていた。

「群れるんですね、あいつらも」

ギガントサイクロプスは普通、単独で目撃される魔物だ。その巨体を維持するための食料が大量に必要だからと言われているが、撃破例が少なすぎて研究が進んでいない。なので、複数で行動しているのを見かけたという報告そのものがない。

「フィリノさん、あれ、やれますか?」

「いや・・・さすがにあれは無理だろう」

フィリノがギガントサイクロプスを倒す方法は、縄を投げて首なり肩なりに引っかけて、素早くよじ登るのだ。皮膚が頑丈すぎてその程度では気づかれないのを利用して、喉や目と言った弱点を突く戦術である。複数のギガントサイクロプスがいれば、よじ登る途中で発見されて殺されてしまうだろう。フィリノでさえこれには対処不能だった。

「どうすんだよ」


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