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「増えてるよ、絶対増えてる!」

「だよなあ。ジェムザが新横浜で勧誘してくれてるのか?」

製油所には、最初に募集に応じた冒険者よりずっと多い人数が集まっていた。強力な魔物と戦いたい冒険者も当然集まったが、油石で手堅く稼ぎたい冒険者や樽を背負って運ぶだけで日銭がもらえると聞いてやってきた労働者も少なくなかった。結果、製油所周辺にはイベント会場のような人の流れができた。このぐらいの規模が最初の想定だったので、少々遅れたものの狙い通りの動きが出来上がったと言えよう。

「朝霜はもう第一新東京港に来たのか?」

「いや、まだだった。今日もう一往復するから、港の倉庫に行って金長たちに聞いてみよう。そういえば、しらねは今どのあたりだろう?」

マーメイド族との接触を試みて以来、姿を見せず連絡もしてこない。まあ、やろうと思ってもできないので致し方ないが、朝霜のドック入渠までに来てもらわないと困るのだ。

「調査が終わったらどうすることになってんだ?」

「それも港の倉庫の金長たちに結果を報告してもらうことになってる。多分今は水の中を移動してくれていると思うが・・・」

「水の中がどうかしたのか?」

ジェムザがちょうど戻って来た。新横浜で再度勧誘活動を行ってくれていたが、こちらはやはり芳しくなかった。もっとも、すでに十分な手勢を確保できているために大した問題ではなかったが。

「しらねが新大坂でマーメイド族と接触しに行ってから、今頃何やってるんだろうって話」

「しらねなら新横浜で会ったぞ」

予想だにしないところにいた。

「新東京まで泳いで移動する休憩中に偶々な」

「話をしたのか?」

「少しだけだがな。マーメイド族の知り合いたちと会えて、新東京での仕事も受けてもらえたらしい」

「じゃあ、予定通りってことだな。重油の量産も安定してきたし、とりあえず心配事はなくなったか」

「となると、私は次は何をすればいい?」

結果的にジェムザの役割が浮いた。小松島は少し考えて答えた。

「地上部分の捜索を、無理のない範囲で」

「ん?何を探すんだ?」

「油石の鉱脈だ。シチェルの見立てでは地下から掘れる分で十分に需要を満たせそうなんだが、念のためにな」

「確かにそれは今しかできそうにないな」

地上部分は強力な魔物が多すぎて、普段は絶対に立ち入れない。だが今なら冒険者たちが大集合していて、ある程度は動き回れる。フィリノが戻ったらさらに危険性は下がるだろう。油石買い取りクエストがなくなったら冒険者たちも数を減らし、安全に魔物を狩るのに必要な人数を割り込むだろうから、そうなったら総撤退である。

「わかった。無理のない範囲で、だな。やってみよう」


フィリノは案内を希望する冒険者たちと共に、採掘拠点へと向かっていた。あくまでも油石の採集が目的で、魔物退治はその副産物である。重々説明しているのだが。

「すげえ、今のってメガアースボアの牙だよな」

象牙ほどもあるメガアースボアの牙を二宮金次郎のように束で背負って運ぶ冒険者とすれ違い、これから参戦する冒険者たちがざわめいた。これは非常に硬いが割れにくい素材で、加工するのは大変だがその分高く売れるため需要が高い。だがメガアースボア自身が非常に硬い表皮を持つため討伐は困難で、ひとつでも市場に出回るときはオークションにかけられることが多い。それを束で入手と言うのは尋常なことではなかった。

「来てよかったかな」

気が早い冒険者はもう狩りの後の豪遊を想像していた。

「油石の採集が目的だぞ」

フィリノがさらに念を押すが、果たして何人が聞いていてくれたのやら。


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