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第一新東京港で待機中の金長一行は途方に暮れていた。
「これでいくつ目だ?」
「最初から数えましょうか」
次々と届けられる、空の樽。送り主は全て国分寺商店。発送支店名が異なるのみである。
「中身がない樽もらったってどうしようもない」
必要なのは樽ではなく重油である。その中身がないのならもらう意味がない。そう思っていたら。
「さーせん、ここアサシモ号の倉庫っすか?」
「また樽か?」
「へぇ、アサシモ号の倉庫から樽をありったけもらってこいとシチェルさんから依頼されまして」
「ん?」
樽を持ち込むのではなく持ち出すという話はこれが初めてだ。依頼人がシチェルというのも初めてである。
「ほな持っていきますんど」
「ちょっと待て、書類を見せろ」
一応、彼らが持ってきた依頼書を改める。特に不審な点はなかった。
「これどうするんだ?」
「油を詰めてここに戻すって聞いてるっす」
「そうなのか」
金長らにも話が見えてきた。樽と油を別々に入手しようというのがシチェルの考えで、それを指揮しているのが小松島上等兵であろうと。おそらく、本当に製油所を作って稼働させ始めたのだと推測できた。
「いつ頃届くんだ?」
「さあ、今日中ってのは無理と思うんすけどね?明日か明後日にはたぶん」
不確実な話ではあるが、どうやら事態が前進することは確かなようだ。
そして、その製油所。
油石を遺跡のトラップを利用して粉砕し、噴水にぶち込む。底に沈んだ搾りかすの上の層が、今回必要な重油だ。かなり大雑把な作り方なので品質は保証できない。
「換気扇も備わっててよかった」
この遺跡はあくまでも過去の住宅地である。人が快適に暮らすための機能が備わっているのだから換気設備がないはずがないと考えたシチェルはフィリノが去った後にもかかわらず捜索し、発見していた。
「よく見つけたなこんなもの」
小松島も驚くほど違和感のない隠され方であり、あるならここしかないと信じてピンポイントで探しまくったシチェルの粘り勝ちだった。
「シチェルさん、次の輸送チーム来ましたよ」
「おーし、じゃあどんどん詰めてくれ」
空の樽が運ばれてきたら、分離しておいた重油を詰めて出荷する。小松島は輸送班の手伝いだ。内火艇だけでは追いつかないため、畝傍の秘密ドックに手漕ぎ舟を数艘運び込んで使っている。もうどこが秘密なのかわからないぐらい堂々と。
「なんか、人増えてないか?」
「隆二もそう思うか?やっぱ多いよな?」
ちょっと前の話。
フィリノはミラーリングベアの頭部やらサイクロプスの亡骸やらを大量に旅人座に持ち込んでいた。
「すげぇ・・・あんな数見たことねーぞ」
「ソロなわけないよな、でもあんなパーティリーダーいたか?」
周囲の声は驚きというより戸惑いの方が大きかった。フィリノは普段人里離れた場所で活動しており、あまり町中には姿を現さない。そのため実力に見合わず知名度が低かった。
「あの・・・いいですか?」
思い切ってフィリノに声をかけた冒険者がいた。
「それ、どこで狩ったんですか」
「ああ、地下遺跡だよ。今あそこで大規模な油石採掘やっててな、その護衛中に狩った」
「地下遺跡?新淀川の向こうですか?」
会話を聞きつけた冒険者たちも寄ってきて話に加わる。
「ああ、そういえばそんな募集もかかってたな」
「採掘の依頼って聞いたからスルーしてたけど、魔物も狩れるのか・・・。何人ぐらい集まってるんですか?」
「100人はいなかったと思うが」
「てことは数十人は集まったのか・・・」
「それだけいればミラーリングベアもやれるか」
「それ、まだ募集してたっけ?」
この発言がきっかけとなり、皆がクエスト掲示板に目を向ける。




