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「で、ウシアフィルカスというのは一体何なのでしょうか?」

「はい、先ほどは突然のご質問でしたので咄嗟にお答えすることができませんでしたが、調べたところニッポン語ではニエと言うそうですな」

「ニエ?」

聞いたことのない言葉である。

「カンジではこう書くそうです」

コスミオが時々手を止めて思い出しながら書いた字は、『贄』だった。

「これはどういう意味だった?」

小松島は日峰と金長に尋ねてみた。

「いけにえのニエが確かこの字ですよ」

「他に使われてる単語はないのか?」

2人とも心当たりがないようだ。

「ウシアフィルカスは船が致命的な損傷を受けた際に、その損害を船に代わって受けるための存在です。例えば、先ほどのロックタートルの水流攻撃ですが、これは一撃で船腹に大穴が開くほどの威力がありますから、一発でも受けてしまうと致命傷となります。ウシアフィルカスがいればその損傷を船の代わりに受けてくれますから、船は無傷で済むというわけですな」

まさに生贄である。ウシアフィルカスを贄と訳した人物は適切な単語を選び出したと言ってよかろう。

「それでその、損傷を代わりに受けたウシアフィルカスはどうなるのでしょう?」

「船腹に穴が開くほどの水流を受けたのですよ、原型すらとどめておりません」

ルイナンセーは当然のことのように語るが、小松島たちは絶句するしかなかった。

「私の船、ホネエチヤンは運悪く疫病でウシアフィルカスの数が減っておりましてな。ロックタートルに襲われた時は1つしか残っておらなんだのですよ」

ルイナントカがさらに付け足してくるが、さらに重大な情報が得られた。ウシアフィルカスはどうやら1人2人ではなく1つ2つと数えられる積荷として扱われているようだ。

「上等兵殿、これは」

「落ち着け」

日峰がなんとか怒りを抑えているのが伝わってくる。金長も同様の雰囲気だ。小松島ももちろん人間、それも子供を盾にして生き残ろうとするルイナンセーたちのことを許し難いと思っているが、今は情報収集の任務中であることを考えて2人の部下を制した。

「なるほど理解できました。しかし個体の識別ができないと不便では?この子は何と呼んでいたのでしょうか?」

「名前はありませんが、仕入れたときに番号を振りました。それは32番目でしたからシークと」

それ、というのは小松島たち3人の後ろにいるウシアフィルカスのことである。小松島は先ほど受け取った翻訳表を見る。数の数え方も記されており、『三=シー』『二=ク』とある。

「アー、ク、シー、テ、ノー(1、2、3、4、5)・・・と?」

「ええ、そのあとフ、メ、ヤー、ロ、アーオ(6、7、8、9、10)とナンバリングしております」

「15番目ならアーノー、20番目ならクオ?」

「左様でございます」

現地語・・・ベスプチ語での数の数え方がわかったのは大収穫だった。

(しかし、これはひどい・・・。いくら郷に入りては郷に従えとは言ってもこれはない)

日本人には全く受け入れられない価値観であるが、この世界・・・佐多大尉言うところの黄泉の世界では当たり前のように受け入れられているようだ。拒絶したところでこちらが異常扱いされるのは間違いないだろう。

「ちょっと・・・水をいただいてよろしいですか。4人分」

「4人?・・・ああ、ウシアフィルカスにもやってよいのですね」

水を飲んで落ち着くために求めてみたが、最後にさりげなくこの風習に抵抗してみた。全く通じなかったわけでもなく、こちらがウシアフィルカスを人として扱っているのだということを理解させることはできたようだ、


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