177 第174話ごろのジェムザ
「案外集まらんものだな」
「条件が緩いからこのぐらいは集まりましたが、ちょっと遅かったですね。新横浜復興のために人手が必要ってんで大募集がかかりましたから」
「もうやってんのか」
「新市長、動きが早いですね」
ジェムザは旅人座において、特定危険生物対策連携推進協議連盟基金専属の派遣職員を紹介する担当者と話し合いをしていた。だがどうにも人数が集まらず、想定の半分というところでしかない。
「旧市長派の冒険者は新市長による粛清を避けるために新横浜を離れちゃいましたしね」
「新市長そんなに乱暴なの?!」
「いやまさか、新市長はそんなことをする人ではありませんよ。ただほら、よく言うでしょう?自分がしてきたことは相手もすると考えてしまうって」
「あー・・・納得だ」
新市長は、旧市長が政権を獲得する前の市長でもある。今回の選挙はいわば返り咲きだ。しかし、前回の選挙で政権交代が行われた際、旧市長はそれまでの政権に近かった者たちを遠ざけ、あるいは適当な罪を着せて処分していた。そのために人材が不足し、わずか1期のみの短命政権となったわけだがその件については別の話。
「まあ、新市長が穏健だとわかれば戻ってくる人もいるでしょうけど」
「それまでは待てんのだよなあ」
今回の仕事にはタイムリミットがある。万全を期すために十分な人数が揃うまで待っていては時期を逃すのだ。
「やむを得ないか。集まった人数だけで移動しよう」
「明日まで待てるならもう5人ほど」
「わかった、じゃあそれでいったん締め切る」
打ち合わせはこれで終了。あとは、ジェムザが自分で町中を移動する冒険者たちを地道に勧誘することにしていた。あてもなく町中を歩き回ってもいいのだが、ひとつ心当たりがあったのでそこに向かう。
新横浜西寄り、つまり新東京側であるが、そこには山がある。高さはせいぜい数十メートルに過ぎないし、周囲をぐるりと回るのに半日も要しない。大陸の中央山脈と比べたら盛り土のようなものであるが、この山頂には冒険者の訓練施設がある。
「あ、いけね。大事なこと忘れてた」
問題はその訓練施設が新横浜からお金をもらって運営されている、いや、されていたということ。短期間とはいえジェムザもここに通ったことがあるが、旧新横浜市長が当選する前のことである。果たしてその後、この施設がまともに運営されていたのだろうか。足を向ける前にそのぐらい確認しておくべきだったと、ジェムザは後悔した。
(とはいえ、道は整ってるな。ずっと人が使っている証だ)
施設が廃止されたり閉鎖されたりして使われなくなっていたのなら、そこに通じる山道も雑草が生い茂り自然に帰る気配があるはずだ。だが実際にはそのような様子はなく、歩きやすくなっていた。思い過ごしだったかと安堵したジェムザの足取りも自然と軽くなる。
「おや」
だが、施設に入る手前にある鉄柵のゲートの様子がおかしい。開け放たれているように見えたが、近づいてみるとそうではなかった。取り外され、完全に通行フリーになっていたのだ。
「不用心だな」
このゲートの設置目的は不審者の侵入を拒むためではない。野生動物や魔物の侵入阻止だ。スタンピードに耐え切れなかったのかと思ったが、ゲートはあくまでも『取り外されて』おり、破壊されたわけではない。魔物の仕業にしては行儀が良すぎる。
「どちらさんどす?」
ジェムザの姿を認めた人が声をかけてきた。
「昔ここで世話になった者ですが、何か様子がおかしいような」
「ああ、今はいろいろ片付けよう最中やきん」
「片付け?」
「うちも手伝いようとこや。中に元職員の方らおりますえ」
元、というのが少しひっかかりはしたが、どうやら事情に詳しい人が他にいるようだ。そちらから話を聞くことにする。




