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「どこ行きやがったァー!」

ウエストナリィで、小松島は無事に若者を撒くことに成功した。随分走る羽目になったが、現役軍人の小松島を追い続けることができたこの若者も相当な体力の持ち主である。正直、ここまで走り続けることができるとは思っていなかった。

(三八式では不利か)

連射できないうえに照準器が壊れている三八式小銃では戦えないと考え、小松島は合切袋からルガーP08を取り出した。スライドを引こうとしたがうまく動かない。

(壊れてんのか?いや、安全装置・・・?)

普通の自動拳銃は、スライドという上半分の部品が後ろに移動することで弾丸が装填されて撃てるようになる。が、わずかながら例外もある。P08はその例外の中でもさらに特殊、ほぼ唯一と言ってよい『斜め上に引っ張る』トグルアクション構造をしている。小松島が扱ったことがある拳銃は回転式を除けば九四式拳銃と米軍のM1911のみ。M1911は一般的な『上半分を後ろに引っぱる』構造で、九四式拳銃は『後端部を後ろに引っ張る』構造をしている。ルガーP08はそのどちらの操作方法とも違い、小松島が混乱するのも無理なかった。ついでに、ドイツ製の拳銃ゆえに刻印もドイツ語であり、安全装置を示す文字も小松島には読めなかった。

余談であるが、一般的な『日本陸軍仕様のルガーP08』は設計がドイツ、製造がイギリス、購入がオランダ、装備が日本というややこしい経歴をもつのだが、小松島が持っているのはドイツ再軍備宣言後製造の純粋なドイツ製。きわめて希少な一品である。

「ここかァーっ!」

どうやら手当たり次第に人が隠れられそうなところを蹴とばすなり叩くなりして探している模様。見つかるのも時間の問題と考えた小松島は打って出ることも考え、使い方のわからぬ武器をあきらめて三十年式銃剣で対抗することにした。

「うあっ!つあっ!」

が、若者の声がどうもおかしくなった。小松島を探すというよりは別の敵に襲われているような声である。小松島はそっと隠れ場所から顔を出して様子をうかがう。

「ちょぎっ!」

若者はどうも鳥のような生き物に繰り返し攻撃を受けている模様。スタンピードの時に名前を聞いていたので、この敵の心当たりはすぐに浮かんだ。

「サイレントイーグルってやつか」

自分に対する警戒が薄れたところを狙って仕掛けてくるという、飛行可能な魔物。普通は街中で遭遇するようなものではないが、おそらくスタンピードの生き残りだろう。シチェルはあっさり撃ち落としていたが、小松島を探すために注意がおろそかになっていた若者はまさに手ごろな獲物だった。4回、5回と攻撃を繰り返され傷ついていく若者。ついに膝をつき、サイレントイーグルもとどめの頃合いと読んだか、今までとは違う深い一撃の態勢に入った。

「て、ことはだ」

小松島は隠れ場所から走り出すと、若者をかばうようにサイレントイーグルの前に立ちふさがった。

「待ち構えていれば、自分から当たりに来るよな」

三八式小銃を、野球のバントのように構えて待ち受ける。読み通りに突っ込んできたサイレントイーグルは、鬼胡桃の棍棒と称してもさほど誤りではない障害物に頭から突っ込んだ。小型の個体とはいえ、かなりの衝撃である。小松島は数歩あとずさり、若者の手を思いきり踏みつけてしまった。

「痛てぇ!」

「あ、すまん」

サイレントイーグルはふらつきながらも上昇し、態勢を立て直す。新手を脅威と見るか否か判断に迷ったようだが、再度突入の姿勢を取った。

「貸せ!」

若者が持つ剣は短刀とはいえ鉄の塊でそこそこ重い。サイレントイーグルのように小さくて素早い相手には振り遅れがちで、空振りも多かった。これでは戦えないと考えたか、あえて自分の武器を捨て置き小松島の三十年式を抜いた。

「どぁるぁっしゃああーっ!」

まっすぐに突っ込んでくるサイレントイーグルに対し、これまたまっすぐに銃剣を突き出す。見事、頭部から胴体を貫いて串刺しにしてしまった。


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