174 173話ごろのシチェルとフィリノ
シチェルとフィリノは油石の採掘ポイントに移動していた。
「やっぱりなー。前見たときに思った通り、相当でかい鉱脈みたいだ」
「そうなのか?」
「というか、この地下遺跡が鉱脈をぶち抜いて作られたって言ってもいいぐらいかな。このへんの壁や天井ひっぺがしたらいくらでも採掘できそうだ。本来なら地上に露出したのを採掘するのが楽なんだが」
オーストラリアの鉄、チリの銅、南アフリカのダイヤモンドなど、地表に鉱物資源が露出している地域は元の世界にもいくつかある。ここも油石の鉱脈が地表に露出していて、露天掘りが可能となっているようだ。だが、一番にして最大の問題点が。
「おお、なるほど。いっぱいいるな」
フィリノが天井の穴から地表の様子をうかがうと、確かにミラーリンググリズリーが大量に生息していた。もちろん下位種のシールドベアもうようよしている。
「これはやりがいがあるぞ、ちょっと何匹か適当に釣ってきてくれ」
「やだよ」
これである。ベテラン冒険者でも避けて通る強力な魔物の一大生息地どまんなかに、この油石鉱脈があった。露天掘りが不可能である以上、地下遺跡の中から掘り進めていくしかない。・・・とシチェルは考えていた。
「ミラーリンググリズリーなんか10匹ぐらいまとめて処理しないとコスパ悪いぞ」
「できるわけねーだろ!」
「簡単だって。あ、今の大声に反応して寄ってきやがった」
「ひぇ」
遺跡の中は水を嫌う魔物らが入ってこない安全圏である。とはいえ入り口付近にいると鉢合わせしかねないので、シチェルは慌てて奥に引っ込んだ。
「7匹か、まあいいだろ」
フィリノに気付いて近づいてくるミラーリンググリズリーは7匹。これを迎撃するため、顔だけを地表に出していたフィリノは堂々と全身を表し戦闘準備に入る。
「シチェル、聞こえてっかー?ミラーリンググリズリーはなあ・・・」
ナギナタを腰だめに振りかぶり、ミラーリンググリズリーが突進してくるのを待ち受ける。銀色の頭部は武器も魔法も受け付けずに跳ね返してしまうが、その頭部を盾にした突撃が基本戦法だ。どの個体もまずはこれで突っ込んでくる。
「頭より下を狙って薙ぎ払えばいいんだよ、っと!」
2匹の間をすり抜けるように前進する瞬間に、草を薙ぐような低さでナギナタを振りぬく。一瞬にして、2匹のミラーリンググリズリーの足が1本ずつ切り飛ばされて宙を舞った。
「はい次!」
まだ生きている2匹をそのまま放置し、後続してくるやつらもすれ違いざまに足を切り飛ばしていく。
「でもって、こう!」
最後の1匹はタイミングが合わなかったのでテンポをずらすため、寸前で体当たりをかわして薙刀を後ろ手に持ち替える。後ろ足が刃に引っかかり、切り落とすには至らないまでも深い傷を負わせた。7匹とも絶命はしていないが、足を失った状態ではまともに動くこともできずにいる。フィリノは1匹ずつとどめを刺していった。
「軽いもんだろ?」
頭が頑丈で攻撃が通らないなら、頭を狙わなければよい。ただそれだけの発想であるが、それができるなら苦労しない。しなかった。
「おや?」
シールドベアが数匹、遠巻きにこちらを見ている。フィリノに恐れをなしたか、襲ってくる様子はない。
「まあ、あいつらはいいか。おーいシチェル、ミラーリンググリズリー解体するから手伝えよ」
ミラーリンググリズリーはまとめて処理しないとコスパが悪い、とフィリノが言うのは、解体によって得られる部位の売却額の微妙さが理由だ。肉や毛皮類は普通の動物肉と同じなので大した金額にならない。頭部は加工することで魔法反射機能を持つ特殊な防具の材料になるが、頭1つだけでは兜だけか手甲だけの分にしかならない。全身分を用意するとなると10匹分ぐらいはないと足りないのだが、何せ倒しにくい(と言われている)魔物であるためなかなか必要量の素材が手に入らない。故に作りにくく、需要があっても高価になりすぎて売りにくい。このため、頭部はたくさんまとめて売却しないと高値がつかないのである。
後は前足だけなら特殊な料理屋が買ってくれるが、それぐらいだ。
「げ、本当に始末しやがったのかよ」
そっと顔を出したシチェルは、ミラーリンググリズリーの死体が並ぶというとんでもない光景に驚愕した。
「ちょっと少ないから後で適当に追加で殺ってくるよ」
「いや、そのりくつはおかしい」




