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172 165話ごろのシチェル

「このトラップって、一帯を水没させる奴だって話だよな?」

「そうだ、実験済みだから間違いないはずだ」

シチェルとフィリノの2人が今いるのは、地下遺跡のとある十字路。中心に魔法石付きの灯篭が据え付けられた石造りの円環トラップがある場所だ。

「この構造ではそうは思えねーんだが・・・本当に水没するまで実験したのか?」

「まさか。そうなる前に水を止めないと死んでしまうだろう」

「だよな、やっぱ」

シチェルは円環の内側の一部を指さした。淵から数センチ下がった場所に穴が開いている。穴は円環の数か所に空いており、10個以上あるようだ。

「水があふれる前にここから排水するから、外にはこぼれないと思うぞ?」

「ん?」

「たぶんこれ、水飲み場か洗濯場みたいなものなんじゃないか?」

「・・・・」

シチェルの説に反論できなかったフィリノは視線を泳がせた。少々気まずい。

「ただの噴水という可能性も」

「・・・・」

空気を変えるどころか悪化した。

「えーと・・・とりあえず水をためるか」

「あー、魔法石に触れると水が出て、もう一回触れると止まる」

この構造だと、水を止める際にはたまった水の中を歩いていく必要がある。滅多に止めることがないからそれでもよしと割り切ったのだろうか。

「水がたまるまでに、さっきのホースを調べておこう」

「ああ、あれか」

フィリノは消火設備と予想しているが、ホースが丸めて置かれているところが遺跡内各所にあった。シチェルの計画では、これが使えるとだいぶ楽になるのである。噴水トラップ(仮称)から少々移動したところにもあった。

「耐油性はあるみたいだな・・・。でも本当に消火設備なら、ホースだけあるってことはないんじゃないか」

「つまり手押しポンプだな?」

「ああ、この近くにあるんじゃないかと思ってさ」

2人で探してみるが、どうやら何かが取り付けられていたらしい土台が見つかった。

「本体は持っていかれちゃったか」

「他にもあるだろうから探してみよう」

捜索範囲を広げてみたところ、予想通りに古いポンプが複数見つかった。

「ちゃんと動くといいんだが」

「壊れてたら他のと部品を交換しよう」

コンピューター制御という余計な機能がついていない工業製品はこれができるから楽なのだ。もっとも、さらに古くなると家庭内工業レベルの製品になるので、部品の互換性がなくなる。

「おお、動く動く」

「ちゃんと汲めてるな、これは使える」

噴水トラップ(仮称)近くに設置し直して試験的に水を汲んでみたところ、ポンプは設計通りの性能を発揮してくれた。

「じゃあ配管するか」

シチェルの本来の計画ではここで油石から油を抽出し、それを樽詰めして内火艇まで人力で、畝傍までは内火艇で、畝傍から第一新東京港の倉庫までは再び人力で・・・ということになっていた。しかし、石油パイプラインの設置によって内火艇まで配送可能となれば多少労力を削減できる。

「問題は、こんな手押しポンプであそこまで送れるのかということだが」

「それなら大丈夫だ、中継地を作るから」

さすがに直送は不可能と考え、途中に何か所か石油タンクを用意。そこに流し込んだ石油を改めて送り出す方式。ポンプもそれを動かす人手も必要になるのだが、樽に詰めて背負って運ぶよりはマシだ。

「これで油の配送の手はずは整ったと」

「じゃあ次は油石だな。この前見つけたところに案内すればいいんだな?」

「あー、あそこな。地上とつながってて・・・ミラーリンググリズリーの群れがいるとこ」

ベテラン冒険者でもてこずる魔物が大量にうごめく光景は、あまり見たくないものであった。

「面白そうだな」

「え?」


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