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鈍足の隊商を、新京都を出てすぐにぶっちぎった数台の馬車が新大坂に到着した。新京都を出発してから丸一日とちょっと、途中で2回ほど大休止をはさんでいる。家族連れとその護衛の傭兵らしきグループ、小松島一行、空荷に近い商人、どうやら金を出し合って乗り合った冒険者たち。この4台から少し遅れて、例の高級馬車とその身の回り品を積んだらしい馬車。これが先行組で、それ以外は徒歩での移動速度に合わせた組なので倍以上の日程が必要だろう。そして、新大坂であるが、前回訪れたときとは多少雰囲気が異なっていた。
「なんやえらいにぎやかでんな」
「ウラシマ祭りだったか、あれのやり直しでもやってるのか?」
祭りではないのだが、それに近い勢いでヒトモノカネが流入しているのが現在の新大坂だ。理由は単純で、スタンピードによって新横浜・新京都が甚大な被害を被ったからである。このため、街道で直通できる新東京・新静岡・新大坂に経済の波が押し寄せていた。だが新東京はすでに過密状態であり、小なりとはいえ港が備わっている新大坂のほうが内陸の新静岡より物流面で有利ということで、新横浜を脱した商売人らの少なくとも過半数ないし大多数が新大坂への移転を試みていた。それに加えて今年のウラシマ祭りが不発だったという条件も重なり、商機を逃した新大坂在来の商人たちも便乗。その結果、今の新大坂は尋常ではない活況を呈していた。具体的に言うと・・・。
「進まへんなあ」
新大坂市街は馬車では身動きが取れない程の混雑をきたしていた。その中を今時速30センチで移動している。
「こらあきまへんで・・・」
「あ、追いつかれた」
引き離したはずの高級馬車がまた視界に入ってきた。何と言っても目立つのである。もっとも、小松島たちの馬車との間にも人の群れがみっちり詰まっているので、これ以上距離が詰まることはなかなかなさそうだが。
「新通天閣の近くにある貯木場。えーと、マーメイドはんらが何とか呼んではりましたが・・・なんでしたっけ?」
「水中の地名は地上の地名と違うんだったな。それしか覚えてないが」
「まあ、とにかくそこまで行かんことには話進みまへんのやけど・・・これやと夜になってまいますえ」
「先に松原屋に寄ろうと思ってたが、こりゃ無理か?」
「無理どすなあ。適当な宿か駐車場探して、歩いた方が早い思います」
「そうするか。心当たりはあるか?」
「このへんはほとんど立ち入ったことがありまへんで・・・。いや、ちゃいます。いっこも来た事ありまへんわ」
新大坂の土地勘があるとはいえ、ガイドのような情報サービスを期待してはいけない。新通天閣を目印に進み、やっと見つけた駐車場は満車。流されて高級旅館街に入るとここは人もまばらで進みやすくなっており、ようやく空きを見つけて駐車することができた。
「ほな行きましょか」
「道はわかるか?」
「とりあえず新通天閣ぅ目指して歩きます。そしたらうちの地元あたりまでは行けますやろ。そこからはお任せいただいてよろしいわ」
「わかった」
何せ高級旅館街である。明らかに量産品、しかも使い古しの馬車は明らかに目立っていた。そこから降りてきた人間2人もである。好意的ではない視線が向けられていることはすぐにわかった。
幸い、そのような地域はわずかだった。道を一本隔てただけで商都の賑わいが復活していた。




