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170 160話ごろの朝霜

ルイナンセー氏との調整の結果、朝霜の行動予定が決まった。

「3日後の出港ですか」

「ああ、あちらも急ぎらしいしな」

ルイナンセー氏にとって今回のメイジニッポン長期滞在は予定外であった。ガリアル到着までのスケジュールには余裕を持たせていたが、それを加味してもこれ以上は待てないのである。かといって護衛なしでの出発はあまりにもリスクがありすぎるため、やむをえず滞在を延長していた。スケジュールを調整した結果、第一新東京港にはナナナミネー号単独で移動することになった。それを可能としたのが、朝霜の護衛という条件である。どのみち朝霜も第一新東京港への回航が必要であるため、虫のいい話とは思いつつも重油を都合してくれた礼という意味もあって了承していた。さすがにガリアル迄の護衛となると、佐多艦長も安易には了承できない。こちらの話はもう少し詰める必要があった。

「あの、艦長・・・。金長組からの定時連絡があったのですが」

「今日あたり新東京に着く予定だったよな、何か言ってきたか?」

「小松島上等兵がアトイ商店から重油の受領を行ったそうですが・・・」

「お、調達成功したのか。で、何が『が』なんだ?」

「量が・・・800リットルとのことです」

「トン?」

「リットルです」

「つまり、えー・・・約0.6トン」

「はい」

佐多艦長は右手で顔を覆った。

「あふ・・・」

絶望のため息である。

「そして、これは少なすぎるということで、小松島上等兵は製油所の建設のための行動を開始したそうです」

「待て、どうしてそうなる」

嘘ではないが不正確な情報だ。『油石を集めて墨油を搾り取る』が『製油所を建設して重油を製造する』にすり替わった。間違いではないから訂正も難しい。

「2週間でなんとか100トン単位で製造可能にするそうで」

「何をやっとるんだあいつは」

佐多艦長は黄泉の世界での石油製品製造の実態を知らないので、前世での石油工場を想像している。つまり、蒸留塔や脱硫装置等の諸施設群、丸い石油タンク、それらをつなぐパイプラインが立ち並ぶ光景だ。それを2週間で完成させて稼働状態にするなど大言壮語にもほどがある。

なお、黄泉の世界では石油製品を原油からではなく油石から製造するため、現実世界の製法とは似ても似つかぬ手法が使われている。原油をもとにするのであれば、単に煮詰めるだけで最低限の実用性を備えた製品が出来上がる。もっとも、経済効率だとか大気汚染だとかを一切気にしないならばの話だが。

「他の調達ルートはないのか?」

「一応金長組が新東京で聞いて回っているそうです。しかし、個人消費レベルの需要しかないみたいですから、トン単位で量産できるところがあるとは考えられません。ありったけ買い占めて数キロにしかならんでしょう」

「・・・ともかく第一新東京港に移動してから考えよう。移動するのは決定事項だしな。ドックがあることはわかっているんだし、入渠中に再度方針を検討することにする」

棚上げとも先送りともつかぬ決断であった。


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