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翌朝、一太郎の案内で新京都の中央部へ移動した。オーニン内乱以前は立派な邸宅が立ち並ぶ高級住宅街だったらしいが、今はもう跡形もない。しいて言うならその豪邸の庭を囲う塀が、隊商参加者の集合場所としてちょうどいい目印になっているため、結果的に人が集まりやすいようだ。
「では、松原屋でまた」
「よろしく」
一太郎は小松島に一礼すると、案内を終えて立ち去った。集合は3日後。もし小松島が遅れてもリトは松原屋に残るので空振りになることはない。逆に小松島が早く地下遺跡に向かったとしても、一太郎も道がわかっているので困ることはない。なので、正確に待ち合わせの日時を決める必要はなかった。
「結構、人多いんやねえ」
「大移動と言うと大げさかもしれんが、思った以上だな」
せいぜい5人ぐらいが連れ立って移動する程度と思っていたが、実際はその10倍近い人数だった。確かに新京都と新大坂の間はかなり治安が悪いが、それよりも通行可能な道路が毎日のように変更されるというのが問題だった。つまり、これだけいれば誰かが情報を持っているだろう、という考えの寄り合い所帯である。
「ムセンキいりませんか~」
そして、これだけいれば誰かが買ってくれるだろうという考えの物売りもいるのである。
「買っておくか?」
「飲みモンがあればいっしょに買うてもええんとちゃいますか」
「毎度~」
新大坂までの移動はゆっくりしたものなので、一応食料は買いこんである。実際には道中で調理販売する物売りもいるので、お金さえ持っていれば後は全て同道する物売り頼みでもなんとかなったりする。
「お、動き出しましたわ」
出発時刻になったのか、先頭のグループが移動を始めた。馬車は全部で5台程度、残りは徒歩である。
「ムセンキありますよ、いかがですか」
「さっき買ったからもういいよ」
「へい」
物売りも複数いて、流れを無視して歩き回っているので隊商の歩みの妨げになっている。正直邪魔だった。
「ほなうちらも行きますえ」
それでもしばらくすると前が空いたので、しらねが馬車を動かし始めた。徒歩組と同じ速度なのでゆっくりしたものであるが、仕方あるまい。
隊商には途中で合流する者もいる。それも、徒歩組だったり馬車だったり、あるいは個人だったり団体だったり。中にはやたらと高級そうな馬車もある。
「あれはあかんわ、離れましょ」
しらねがその高級馬車から距離を取るためにあえて減速した。
「ぶつけたら訴えられそうだな」
「新京都なんぞにあんなもん乗り入れてよう無事やったな思いますえ」
治安という言葉がないような土地柄である。略奪の対象にならなかったのが不思議なぐらいだ。
「本当に予定通り新大坂に着くのか?この速さで」
小松島は不安になったが、実はのろいのは新京都市街を抜けるまでだ。そのあとは徒歩組や速度を気にしない馬車といった低速組を残して高速組がスパートをかけるので、スロースタートは織り込み済みなのである。




