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「すまない、隆二殿。話がまとまらなかった」

「説得材料が足りなかった。こちらの準備不足のせいだ、気にしないでくれ」

馬車に戻る途中、一太郎が小松島に詫びてきた。

「それで、人集めはどうされますの?出直しますか?」

「いや、このまま予定通りに集めてほしい。予定より数が少なくなるかもしれないがやむを得ない」

「承知しましたわ」

「いいのか・・・いいのですか?」

「まあ、時間を掛ければ少し人数が足りなくてもなんとかなるだろう」

「・・・ヒーナ、夜が明けたら別行動してくれないか。リトは動けないからこのまま真祖丸楠派に残って、志願者を取りまとめてもらおう。俺は礼任党や礼任連合の系列を回る。ヒーナは丸楠派を回ってくれ。声をかける範囲を広げることでカバーしたい」

「承知しましたわ」

馬車に戻ると、しらねはうとうとしていたがリトの姿がない。

「戻ったぞ」

「お?おおー、主はん。話まとまりましたん?」

「いや、不首尾だな。リト殿はどうした?」

「トイレやそうです」

しばらくしてリトが戻り、一太郎が今後の方針を説明。リトも同意してくれた。

「ほなけんど、おもろうないことになってしもたんやなあ」

「やむを得ないでしょう。同志長が断った理由には道理がある。組織人としては危険性を無視した運営はできない」

「あん人はえろう優秀なんはええんやけどなあ・・・。まあ、しょうないわな」

一太郎一行は夜が明けたら行動を開始するという。今のうちに新京都から新大坂までの道を聞いておかないといけないかと思ったが、必要なかった。

「新大坂と新京都を結ぶ隊商が一日一往復しています。それに混ざれば新大坂まで迷わずたどり着けるでしょう」

また一太郎の言葉使いが丁寧になっている。どうも弱みがあったり責任を感じたりするとそうなる癖のようだ。

「料金は?」

「お互い様なのでかかりません。むしろ、徒歩の商人を乗せてやればお金を取れるでしょう」

「なるほど」

「夜が明けたら隊商の集合地点にご案内します。それまでは、その・・・申し訳ないのですが、真祖丸楠派は小所帯でして。来客の方をお泊めする施設はないのです」

「ああ、そういうことなら仕方ないか。馬車で休むよ」

「重ね重ねすみませんでした」

こうやって、自分には弱みがありますと宣言するかのような語り方をするのが一太郎の弱点なのだろう。そこをうまく突ける人にカモ扱いされてしまうのかもしれない。一太郎は最後にもう一度頭を下げて、ヒーナ・リトとともに自室があるのであろう方へ帰っていった。

「指導者に向かない性格だな、彼は」

おそらくサラリーマンとして企業の歯車になるのが本人のためになるのだろう。冒険者パーティのリーダーとしての適性があまりないようだ。

「主はん、一応寝床らしきものは作りましたえ」

馬車泊が確定した後、小松島が一太郎たちと話をしている間に、寝ころびやすいようにしらねが荷物をよけて場所を作ってくれていた。

「うちらの馬車はいまどのへんにありますんやろなあ」

新大坂で貸し出し中の、4人が寝られる大きさで幌付きの馬車。今ならあれがいかに上等なものだったかがわかる。

「しらねはどこで寝る?」

「適当に寝ますんど。主はんはおやすみなはれ」

「そうか」

時計によるともうすぐ午前2時。眠くなって当然だ。小松島が横になると、一呼吸する間もなく眠りに落ちた。


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