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新京都にある真祖丸楠派の拠点に着いたのは深夜だった。
「園田、戻ったのか?本家の方に移籍したと聞いてたが」
「もうあんなところ行かねえよ」
何か人間関係のトラブルでもあったのだろうか。
「それより仕事を見つけてきたぞ。期間はそれほど長くないが、人数に上限がない大仕事だ」
「ほう?それは同志長を起こす価値があるほどの仕事か?」
「あるある、だからすぐに起こしてきてくれよ」
真祖丸楠派の拠点を守っていたのは、しらねと同じ緑人の男性だった。同志長というのがリーダーの肩書きなのだろう。馬車を降りて待っていると、ほどなくして緑人男性が小柄な少年のような人物を連れて戻る。どうやらこちらも亜人のようで、人種はよくわからないが尻尾らしきものが見えている。
「話を聞こうか、園田」
「ああ、こちらが雇い主だ。仕事は油石の買い取り」
「うん?確かに我々の拠点には油石が少々あるが、ただの売買ではないのか?」
「買取量が桁違いなんだよ。で、採掘場所も紹介してくれるんだ。つまり、一回こっきりの商売じゃないってことだ」
「ふむ?」
同志長は小松島の方を見ると、しばし考える様子を見せてから姿勢を正した。
「夜分遅くゆえ、大したおもてなしもできませんが、中へお入りください。話を伺います」
「わかりました、よろしくお願いします」
しらねとリトを馬車に残して、残りの面々は真祖丸楠派の中枢ともいえる建物・・・と言っても簡素な小屋であるが、その中へと入った。
中には家具と呼べるようなものは大きなテーブルしかなく、椅子すらない。そのテーブルの上には地図が広げられており、人型の駒が乗せられている。おそらく作戦会議室として使われているのだろう。これからの流れを説明するのには都合がよかった。
「ではまず、油石の買い取り量と金額について・・・」
これで何度目になるかわからない説明を小松島が行う。同志長は一言も発さず、時折うなずくだけでひたすら聞き役に徹していた。
「以上となります」
説明を終えても、同志長は動かなかった。そのまましばらく時間が流れ、何か発言をうながそうかとしたところでようやく言葉が出た。
「虫のいい話だな」
少なくとも、好感触ではなかったようだ。
「仕事は油石の買い取りであって、採掘ではない。ということは、もし地面を掘って何も出てこなければ、我々はタダ働きだ。そちらは何の損をすることもなく手を引いて終わり。こちらだけが割を食うではないか」
「それは・・・」
「園田、お前は少し単純すぎるぞ。儲かるという話にすぐさま飛びついて、思い通りに行かなかったときのことを考慮していない。それだから本家丸楠派にも居場所がなくなるんだ」
「う・・・」
言い返せないところを見るに、やはり何かしらやらかしたかやらかされたか。
「悪いがこの話には乗れん。引き下がるか、でなければ条件を改めて出直してこい。が・・・そうだな、園田のようにあっさり引っかかるやつらを何人か連れていくだけならよしとしよう。どうせ何もやることはないんだ」
同志長は席を立つと、説明中に少し場所がずれた駒いくつかを元の位置に戻して小屋の出口に向かった。
「寝る」
そう言い残して、外に出ていく。




