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旅人座ロビーに移動すると、一太郎とヒーナが待っていた。

「リトは今こちらに向かっています。先に我々だけで話をきいてもよろしいですか」

「はい、では仕事の内容について説明いたします」

一同は壁際のテーブルに着席した。4人掛けなので、しらねは少し離れたところで立ったまま話を聞いている。

目的は墨油の大量調達。そのためには大量の油石の加工が必要になること。採掘可能な場所から採取し、加工所に運搬するために人手が必要。完成した墨油は第一新東京港の倉庫に搬入すること。以上を簡潔に説明し、最後に報酬の話を付け加えた。

「元祖丸楠派にいたよな、元鉱夫のおっさん」

「礼任連合にもいましたわよ。人手には困らなそうですわね。ただ・・・気になることもあります」

「なんでしょうか?」

「それほど大規模に墨油製造を行う必要性がわかりません。話を聞いた限りでは墨油が100トン以上は集まりそうですが、何に使うおつもりですの?」

「私が乗る船は、墨油で動くのです。だいぶ使ってしまって残りが少なくなったので、補充が必要なのです」

「補充って・・・10トンや20トンも集めたところで使い切れるものではないでしょうに」

おそらくヒーナがイメージしているのは10人乗り程度の小舟なのだろう。もちろん原理を理解しての発言でもない。

「しかしそうなると、かなりのお金がかかりますわ。ご用意は大丈夫ですの?」

「リュージ、あの金塊を預かっていいか。ちょうどここは新横浜だから換金できるだろ?あれを原資にして人を集める」

「ああ、わかった」

合切袋から、朝霜から持ち出した金塊を取り出してジェムザに渡す。ジェムザはこれを一太郎とヒーナに見えるように手に乗せた。

「すげえな・・・これ無垢だよな?中空だったりしないよな?」

「ねーよ」

「で、これを報酬として、ジェムザは新横浜、俺とヒーナが新京都で人を集めればいいんだな?」

「そういうことだ。私は新京都に人脈がないし、勢力関係も全くわかってないからな」

「よし、任せろ」

「おや、話まとまってしもたんかいな?」

ちょうどそこに、リトが合流してきた。まだ足の骨折が完治していないので、松葉杖歩行である。ヒーナが席を立ってリトに譲り、リトの松葉杖はしらねが受け取って預かった。

「人手がいる仕事なんだ。リトはまだ歩き回れないから、新京都で俺とヒーナが声をかけて回る。リトは応じてくれた人の取りまとめを頼む」

「よろしおま、やりまひょ。で、人ぉ集めて何やりはりますのや?」

油石を集めて以下省略。


話がまとまった。地下遺跡入り口は新大坂の真北にあるが、間に新淀川が通っている。これを渡る橋はかなり上流、つまり新横浜方面にしかない。そのためジェムザは新横浜から直接地下遺跡へ人を案内し、新大坂には立ち寄らないようだ。一太郎とヒーナは、リトを新京都に置いていくわけにはいかないためいったん新大坂の活動拠点である松原屋に立ち寄り、リトを置いてから地下遺跡へ向かうとのこと。こちらは少々お金がかかるが、橋ではなく渡し舟を使って新淀川を渡る方針だ。

「シチェルと姉の方は準備進んでいるかな?」

「進めておいてくれないと困るが・・・まあ任せるしかないだろう」

「油石の加工の話か?たしか、粉々にして水で溶かすんだったか」

一太郎もある程度は知っているようだ。この黄泉の世界の一般的な知識なのだろうか。

「あ、なるほど。それで地下遺跡か。水はそこらじゅうにあるもんな」

「そこらじゅうというか、必要なだけ出てくる場所があってな。そこで加工するらしい」

「便利な場所があるんだな・・・っていうか、ジェムザは地下遺跡に詳しかったのか?」

「いや、詳しいのは姉だ。私が知っているのは今回の仕事に必要な部分だけだな」

雑談のようで仕事にも関係のある会話がしばらく続いたが、ジェムザはさっさと特定なんたら基金を介した人員募集を進めたいようだ。

「窓口が閉まる前に手続きをしておきたいから、そろそろ行ってくる」

「ああ、よろしく頼む」

「また遺跡の中で会おう」

ジェムザが去り、再びヒーナが着席。

小松島はしらねと共にマーメイド族を訪れて仕事の依頼を済ませたのち、松原屋に向かう。そこで一太郎と合流して、地下遺跡へ向かうという手はずだ。一太郎はジェムザから遺跡内部の油石採掘場への行き方を聞いてあるので、実際に一度訪れた小松島もいれば道に迷うこともあるまい。


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