164
一太郎に遭遇することはできず、ジェムザとしらねは旅人座に戻って来た。
「頃合いかな」
ちょうどいい時間だったので、小松島を起こしに部屋に向かう。
「あれ、ジェムザじゃねーか」
「おあ、ここにいたのかよ」
部屋の手前で、ついさっき探すのをあきらめた園田一太郎とばったり。歩き回った意味がなかった。
「隆二殿が投宿していると聞いて来てみたんだが」
「情報が早いな、ついさっきだぞ。・・・まあいい、一太郎は今仕事はあるのか?」
「いや、ない。隆二殿に何か仕事を紹介してもらえないかと思って」
「ならちょうどいい。大きな仕事があるから人を集めてほしいんだ。結構大人数でやらなきゃいけないんだが」
「おお!それは助かる、真祖丸楠派の皆も暇を持て余してるんだ」
一太郎は本家丸楠派だったはずだが、鞍替えしたのだろうか。
「何人ぐらい集まる?」
「今日中に5人は呼べると思う。1週間くれるなら元祖丸楠派や自由延箆党とか礼任連合あたりから100人ぐらい集まるぜ」
「そのぐらいは必要だな。で、その仕事なんだが・・・」
ジェムザはシチェルに見積もってもらったメモを取り出した。
「油石をありったけ集めてほしい。買取上限2400トン。金額は」
「にせんよんひゃくとん!?どこ探せばそんなに掘れるんだよ!」
「落ち着け、あくまで上限だ。それに、専門家の話では大規模な採掘が可能な場所も確認済みだ」
専門家というのはシチェルのことである。地下遺跡の状況から少なく見積もっても数百トンはある、と判断していた。2400トンという数字は、それを加工抽出して重油600トンを確保するために必要な量だ。すべてがおおざっぱな計算ではあるが、おおむね正しいはず・・・とのこと。
油石が採掘できる場所は、新大坂から新淀川を越えた先にある遺跡入り口からまっすぐ西に歩いたところにある。ここで採掘後、抽出場所まで運ぶルートは現在シチェルとフィリノが開拓中だが、ここにたどり着くまでのルートはジェムザが案内できる。なので、あまり早く大人数が集まってしまってもそれはそれで困る。1週間かかるという一太郎の言葉が正しいなら、むしろそのほうが都合がいい。
「50キロぐらい在庫抱えてる奴にも心当たりがある」
「ちょうどいいじゃないか、買い取ろう。とりあえずロビーで待っててくれ、リュージと一緒にすぐ行く」
「わかった」
無職を脱出できる見込みが立った一太郎はジェムザに見えない場所でひそかにガッツポーズしていた。
「・・・で、一太郎はんにお会いでけましたけんど、うちは何をお手伝いすればええんですのん?」
「いや、その必要はなくなった。街中で一太郎と会えたら、ここまで走ってもらうつもりだったんだ」
「あ、なるほど。主はんを呼びに行く担当でっか」
「そういうこと」
ジェムザは小松島が借りた部屋に入ると、横になっている小松島に声をかけた。
「そろそろ昼だぞー」
そういんおこーし!で起きる訓練を受けている小松島は、このワードには反応しなかった。
「おーい」
が、ゆすられるとさすがに反応する。
「ん・・・時間か」
「休めたか?」
「まあ、だいたいな」
「一太郎と会えた。偶然だったけどな」
「なんだ、新横浜まで来てたのか」
まあ、新京都の荒れ果て具合を考えれば、ずっとあちらにいるほうがつらかろう。
「というわけで、私はここまでだ」
「え?」
「一太郎と協力して、シチェルが作っている油石加工所と採掘所で必要な人員を手配する。護衛兼案内人として雇われてはいるが、冒険者を募集して送り込むためには特定・・・基金の動員力が必要だろう?」
盛大に省略した。
「それはまあ・・・そうかもしれんが」
「新京都の治安やと、護衛なしゆうわけにもいきまへんのでは?」
「一太郎のほうが新京都の地理や勢力図には詳しい。新大坂に着いたら今度はしらねのほうが詳しい。消去法で、新横浜に残る役目が一番ふさわしいのは私ということになる」
ジェムザの説明は的外れではないが、にわかには受け入れがたい。しかし、小松島がしばらく考えた末、このプランが最も合理的であると結論づけざるを得なかった。
「つまり、ここで人を集めて、新京都でさらに集めて、新大坂経由で地下遺跡に労働者を送り込むわけか」
「そういうことだ」
「・・・わかった。どうやらそれで頼むのがよさそうだ」
「よし、ならロビーに行こう。一太郎が待ってる」




