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新横浜までの道中には、今までの旅では見かけなかった施設があった。駅だ。

「主はん、急ぎ旅やったら駅で御者を雇うてくれへんやろか」

「しらねと交代で走らせるってことか?」

「せや、馬も替えてもーて、止めずに走り続けるんや」

つまり代行タクシーのようなものだ。

「新東京と新横浜の間は治安がいいからな。盗賊もまず出ない。しらねの言う通り、それが一番早い」

「ほな次の駅あたりで馬を替えましょか。うちはもうちょい先までいけそうやけど」

「そういう制度になっているのか。まあ、早く着く分には助かるな。昼夜兼行で走ろう」

駅は通常速度で約半日程度の距離をとって配置されているそうだ。しらねは無理のない程度でスピードを上げていたため、数時間後には次の駅に到着した。

「少し休憩しよう」

「次の駅に着くのは夜中ぐらいになりますな。ここらで何か食べておいた方がよろしいわ」

「じゃあそうするか」

「ならふたりは先に食べておいてくれ。私が馬替えと交代の御者を手続きしてくる」

「わかった」

諸々の手続きはジェムザに任せ、小松島としらねは飲食コーナーに向かい、メニューを探す。

「こんな半端な場所にあるのに、結構充実してるんだな」

新東京と新横浜の間という人里離れた場所にあるわりには、品数は勿論ただの保存食や旅行食ではないメニューがあるというのが意外であった。

「交通量は多いけん、利用客も多いはずや。携帯食以外のものを食べて旅がでけるいうんはありがたいこっちゃし、使いたがる人も多い。ちゃんと元はとれる思いますえ」

「確かにな」

小松島一行のほかにも2台の馬車が停まっていたし、その片方が今まさに出ていこうとしていた。と同時に馬車ではない徒歩グループが入ってくる。道の駅として重宝されていることがうかがえる。

「それより主はんは何にしますん?」

「ああ、そうだな。魚と米がほしい」

「ほなムセンキ佃煮の握り飯でよろしいか?」

「それでいい」

もはやムセンキは料理名なのか、それとも魚の種類の名前なのかがよくわからない。注文して代金を前払い。

「新横浜まではどのぐらいかかる?」

「結構飛ばしますけんな・・・2日目には着けるんやないでっしゃろか。どのぐらい急げばよろしいか?」

「朝霜到着時には、重油の製造設備が稼働中という報告ができればいいと思っている」

「となると・・・焦るほどではないようでんな」

ムセンキ握りができたので、受け取ってそのまま食べ始めた。

「朝霜到着前に、ドックが使えるかどうかの確認を済ませないといけないだろう?」

「ああ、ということはマーメイドはんらと会うのが一番最後になるのに一番最初に終わらせなあなんわけやね。ほなら・・・確かに急げるだけ急いだほうがよろしいな」

新横浜まで2日、新京都まで2日、新大坂まで2日、そこからマーメイド族とともに新東京まで戻る。各都市での滞在時間も考えると最短でも2週間はかかるだろう。

「馬車より早い移動手段はないのか?」

「空路が一番でんな。けんど、うちらが飛ぶわけにもいきませんわ」

「水偵のひとつもあれば違うんだがなあ・・・」

小松島の飛行機経験は、一度だけ三式連絡機に乗ったことがあるのみ。総飛行時間3時間。もっとも、生まれて初めて飛行機に乗った感動はすぐに失われることになった。目的地到着後に、搭乗予定の機材の到着待ちだった古賀大将・福留中将の2人と言葉を交わす機会があったからだ。予想もしていなかったイベントによって過去数時間の記憶が吹っ飛んだ。昭和19年3月のことである。

「ほな、うちはそろそろ女体化しときましょか。マーメイドはんらと会うんでしたらそのほうがええかと」

「そうなのか?なら任せるが」


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