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「あんまりええ馬車やありまへんな。たぶんかなり腰が痛ぁなりますえ」
馬車で出発してすぐにしらねがそう言いだした。
「貸し出す用ならそんなものだろうよ」
「業者が大きいほどろくでもないもん使うてはりますからな」
大手レンタカー会社で高級車を借りられないのと同じ理屈だろう。そして、おそらくそれが金長一行の無線機の故障が頻発した原因でもある。
「ほんまに飛ばしてええんやね?」
「ああ、可能な限り早く着きたい」
「気が進みまへんなあ・・・」
新東京を東に進む。郊外は農地として使われている土地が多い。これは新静岡でも似たような風景だった。さらに東に進むと、新東京と外地を隔てる門にたどり着く。
「納税証明書と、車両所有者票の提示を」
門を守る警備兵にはそんな書類を求められた。もちろん心当たりはない。
「納税対象品は積んでまへん。所有者票はたぶんここらへんに」
警備兵が馬車の中を確認する。積み荷はなく、同乗者が2人いるだけであることを確かめた。同時に、床近くの壁に貼ってある車両所有者票も確かめた。
「通っていいぞ」
「おーきにー」
馬車が動き出して門をくぐる。兵の姿が見えなくなってから小松島はしらねにたずねた。
「あんな書類が必要だったのか?今まで見たこともないが」
「新東京だけでんな。車両所有者票は発行手数料で儲けるための利権ですわ」
ばっさりだ。
「ほな、そろそろ飛ばしますえ」
「おう」
「リュージ、横になった方がいい」
ジェムザは床に腹ばいになって、適当なところを掴んでいる。
「何で?」
「揺れるぞ」
馬車のスピードが上がり始めた。確かに振動が大きく、時々尻が浮く。
「・・・そうしたほうがいいかもな」
ただでさえ安物の馬車なのに、未舗装路をぶっ飛ばすので半端じゃない揺れ方をする。しかも積み荷がないので少しの衝撃で大きく持ち上がる。揺れるどころか振り回されるようなものだ。
(壊れるんじゃないのかこれ!)
舌を噛む予感がしたので声は出せない。なので減速指示も出せない。時折数十センチは浮いたのではというような浮遊感、次の瞬間には床にたたきつけられる。どこかにしっかり掴まっていないと、痛いどころではない。そんな状況が何分続いたかわからないが、多少マシになってきた。
「しらね!減速!」
「お?ほなもうちょいゆるりと行きましょか」
外の様子を見ると、すでに山道だった。減速したというより、直線道路がなくなったのでスピードを出せなくなっただけのようだ。
「思った以上に揺れた」
「もうやめておいたほうがよろしいか?」
「そうしてくれ、急ぐのは急ぐんだが全速力でなくていいから」
「はいな」




