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「さて、艦橋と司令部要員が全滅したので、人員配置を変更せねばならん。機関室の業務はまあなんとか応急修理が終わって余裕ができたので風門曹長に一任し、俺が艦長業務を引き継ぐがよいな?」
全員が異議なしと答えた。
「2・3番主砲はしばらく使えん、操作員は救助した漂流者の助けになってやれ」
「1番の操作員と交代しつつでよろしいですか?」
「よい。機銃手は可能な限り欠員を出すな、さっきの鳥みたいなのがまた来るかもしれん」
「はい」
「小松島上等兵は引き続き羅針艦橋配置、ただし使える部下がいれば5人まで連れてこい」
「心当たりがあります」
「わかった」
「それと、ナナナミネーに再乗船する約束がありますが日没後に訪問してよろしいですか?」
「許可するが、もう少し情報を集めてきてくれ。特に、メイジニッポンという国については可能な限り詳しくだ」
「了解いたしました」
「では、質問がなければ以上だが・・・」
佐多大尉は一同を見まわした。
「ないようなので、解散とする」
こうして朝霜の当面の方針は決まった。
小松島は士官室を出た後、日峰と中田、それに金長を探していた。ナナナミネーに連れて行くならこの3人のいずれかだと考えていたからだ。
朝霜の甲板は救助された漂流者でいっぱいだった。艦尾が近くなると、朝霜乗組員の遺体が多く並べられるようになる。
「あ、小松島上等兵殿」
日峰二等兵だった。隣には海軍の軍装を着用した見慣れぬ少女がいた。
「その子も漂流者か?」
「さっきのウシアフィルカスですよ」
「何?」
改めて少女を見ると、確かに面影があるような気がしなくもない。海軍の軍装はサイズが合わず袖がまくられている。ズボンの裾はもともと短いのでちょうどよい長さになっていた。さっきまでは裸足だったが、誰かの私物らしきサンダルを履いている。あまりにも汚すぎた髪が綺麗に整えられ、右目を覆い隠している。とまあ、全体的に見て女の子らしくなっていると言えよう。日峰はウシアフィルカスを兵員浴室に連れて行って初めて女性だと気づいたそうだ。
「髪、切ったのか?さっきはもっと長かったような?」
「徴兵前は理髪師だったってやつがいまして、そいつが切りました。服も実家の内職を手伝っていたやつがいたので、今予備のやつを詰めてもらっています」
「職人揃いだな、この船。ていうかまさか女の子だったとは・・・。」
少女はこの間一言も喋らずにいるが、日本語が通じないせいであろうか。
「右目が髪に隠れているのはなぜだ?」
「なぜか髪を上げるのをひどく嫌がるのであります」
「なら仕方ないか・・・食事は与えたか?」
「実家が診療所だったやつの話では、ろくなものを食べていないやつにいきなりものを食べさせるとショック死するとかで」
リフィーディング症候群のことである。誤りではないが多少の誤解が含まれるのは仕方あるまい。
「ああ、なるほど。ならカルピスでも与えておくか?このあとナナナミネーを訪問するんだが」
「でしたら金長も連れて行きませんか?現地語の理解者は多い方がいいかと思うので」
「人数指定もなかったし、構わんだろう。それと、救助作業はどうなっている?」
「ほぼ済んだようですよ。暗くなる前にナナナミネーに引き渡したかったんですが、さすがにそこまではできそうにないですね」
「では日峰と金長、ウシアフィルカスを連れて4人で行こう。10分やるから乾パンと水を与えて、梯子の下に集合」
「はっ」
小松島は金長を捜しに行く。まず羅針艦橋を見に行くと、すぐに見つかった。事情を話して連れ出す途中で佐多大尉とすれ違う。
「今から行くのか?」
「はい、行ってまいります」
それだけ挨拶をかわすと梯子のところへ向かう。漂流者のうち体力の戻った者たちが時々梯子を上ってナナナミネーに乗り込んでいく。程なくして日峰と少女がやってきた。
「よし、行くか」
小松島を先頭に、4人はナナナミネーに乗り移った。




